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「一体何なのよコレは!」
上高知幸一は、テーブルに乗った小包を指差しながら怒りを押さえ切れずに激しく貧乏揺すりを始めている妻、香美代を目の前にして、困惑しきっていた。
幸一は、テーブルの上に、ケーキだとかチキンだとかと一緒に乗っている小包をチラリと見る。
小包は既に香美代によって開けられていて、彼等がいるダイニングの床には、小包を包んでいたクリスマスリースの絵が描かれた包装紙がビリビリに破かれ散っている。
開かれた小包からは、今がクリスマスイヴだという事をすっかり忘れさせられる代物がギッシリ詰まっていた。
髪だ。
人間の毛髪だ。
恐らく女の物であろうそれが、クリスマスイヴの夜、家族でケーキを食べようとしている最中に宅急便で送られてきたのだ。
小包に貼り付けてあった伝票には、送り主の名前や住所が書かれてはいたが、家族の誰も、心当たりの無いものだった。
しかし、伝票には受取人として、幸一の名前がしっかりと書かれてあった。
「俺にもさっぱり分からないよ! なぁ、落ち着けって! 萌子が恐がっているだろ?」
幸一の台詞に、香美代は部屋の隅で今にも泣き出しそうにしている娘、萌子を見た。
「ああっ、ごめんね、もえちゃん! でも、ママとパパは大事な話をしているのよ! ただ話しているだけ! だから恐がらなくても良いのよ。アナタ! 誰なのよ! この伝票に書いてある差出人の矢藤冨士江って女は!」
矢藤冨士江。
幸一にはそんな名前の知り合いはいなかった。
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