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「明日休みだから先生はビールとチュウハイを買って家のみかぁ!お一人様だから夜は寂しく一人でシコッちゃうんだろうなぁ」
「梨央、完全にストーカーだぞぉ」
「リサーチだって!完璧なシナリオで松浦先生を落とすんだから」
「でたノンケ食い……………お前は無敗だもんな」
「僕に落とせないノンケなんていません!」
「いやぁ、でも教師だぞ!しかも男に手を出すか?タブーのおかわりじゃんか。ハードル高いよ」
「あは?わかってないなぁ。まずゲイはタブーじゃないよ。殆どの男が男の良さを知らないだけだ。松浦先生もう26歳だよ。先週会ってた女はどう見ても遊びだし、ステディな彼女いないっておかしいよね………性癖拗らせちゃってんだよ」
この二人は松浦の教え子である。松浦の後を尾行して来たのである。
秋元梨央彼は年上ノンケ食いを自称している高校生である。更に彼はゲイである事をクラスメイトにもカミングアウトしている。クラスメイトはそれを彼の個性として受け入れている。女生徒からは妄想の対象として、男子生徒からはちょっとしたお姫様扱いをされている。圧倒的に綺麗な上に明るい梨央はクラスの中心にいた。梨央は松浦に恋をしている訳ではない。これはノンケ食いのプライドをかけた彼の全力のゲームなのだ。緻密に練った作戦で男をこちら側に引きずり込むことが梨央の至上の愉楽なのである。そうやって何人ものノンケが梨央に骨抜きにされている。梨央は松浦のような年上でハンサムな男が欲望の対象なだけで恋愛をする気はない。
もう一人は梨央の幼馴染みで協力者である兵藤龍二。直感的で
奔放な梨央をある程度躾けられるのは彼だけしかいない。精悍な顔立ちに逞しい肉体をしている。性格は面倒見が良く誰にでも親切な男である。こうやって梨央のお目付け役をしている。龍二は梨央の暴走を心配していた。
この間も、現代文の授業中に松浦が解き方を解説していた。堅苦しい難解なセンテンスを読み上げる松浦に梨央が脈絡なくこう言った。
「先生…………。先生の声ヤラシイ…………妊娠しそぉ」
黙る松浦。
教室の空気が迷走した。
クラスメイトの視線が梨央に一気に注がれる。
「なぁんちゃって!説明が難しすぎだよセンセ」
クラスメイトは梨央が松浦をからかったと分かって笑い出した。
龍二は青ざめた。梨央は布石を打ったのだ。自分の存在を松浦に強く印象づけるために。
松浦もつられたように笑っていた。
「そうだな。じゃあもう自習にしよっか」
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