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松浦の家から近くの救急指定病院に梨央は救急車で運ばれたようだ。
梨央の名前を受付で尋ねると外科の処置室に居ると言われた。
「先生」
「秋元君、大丈夫なの?」
「来てくれたんだ……」
(教頭の命令だからだよ)
梨央は処置室から出てきた所だった。
「何があったの?」
「男に待ち伏せされて……………………抵抗したら殴られて、こけて額を切っちゃって、通りがかりの人が救急車を呼んでくれたんです」
目の下に青アザがある。額に3センチ程縫った痕があった。他に大きな傷は見当たらない。服が血で汚れている。
(大したことないじゃないか…)
「それは知ってる人?」
「うん。前に付き合ってた人」
(そうかゲイだったな、こいつ)
「そうなんだ…………警察に届けないの?」
梨央は首を振った。
「今日は入院するの?」
「帰っていいって」
「じゃあ、もう帰ろう」
松浦は早く帰って飲み直したかった。
並んで歩くとと梨央は松浦より少し背が高い。
180センチは楽に超えているだろう。首と手足が長いせいか部屋着みたいなくたびれたロングTシャツとスエットパンツを着ているのに垢抜けて見える。
「先生…ごめんなさい、せっかくの週末が僕のせいで、台無しになっちゃって」
(分かってるじゃないか)
「送ろうか?」
松浦は心の中で断ってくれと祈った。
「お願いします」
梨央はニッコリ笑って言った。
松浦は秋元梨央の家に家庭訪問で訪れた事があった。後見人の親戚の者が、梨央に部屋を借りてくれているそうだ。その場だけ親代わりに借り出されたような関係のようだった。梨央がその親戚の女性に気を使っているのがよく分かった。梨央には両親はいないそうだ。
「あっ…………」
梨央が部屋の近くで松浦の後ろに身を隠した。
「います。元彼います」
松浦は梨央の部屋の方を見た。
街灯が薄暗くて顔は確認できないが、人影が見えた。
「あの人なの?」
「はい……」
「はぁ………………どうする?警察呼ぶ?」
(めんどくせ────!)
「駄目です、警察なんか呼んだらおばさんに迷惑かかって僕追い出されます!」
(じゃあどうするんだよ!)
(あぁ俺の週末が消えていく)
「たすけて…………せんせい」
(そういう事はお前のファンの女子生徒に頼めよ!!!)
「他に頼れる人いないの?」
「いない!ぜんぜんいない!」
梨央は力強く即答した。
松浦はクラクラした。
「…………うっうちに来る?」
(こういう流れになるじゃないか!)
「来る!来る!」
(日本語、おかしいぞ)
「なんか、喜んでない?」
「きのせーだよ!せんせー…………いこぉ!」
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