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松浦は授業中に秋元梨央を視界に入れないようにしている。
それには理由がある。
梨央は松浦の琴線に触れてしまった。
松浦は梨央の笑わない時の静かで哀しい黒い瞳を見ると、あの長い首や動く喉仏を見ると、落ちつかない気持ちになるのだ。目が合うと前よりずっと懐っこく微笑みかけられる時もどうしていいのか分からずに目を逸してしまう。
松浦は同僚の英語教師の岡田と、飲みに行った時に、何気なく話をしてみた。
「苦手な生徒がいるかって?そんなの殆ど全員苦手だよ……高校生なんて何考えてるか分からないし」
「じゃなくて、落ちつかないんだ」
「え?女子だろ?駄目だぞー!」
岡田は笑いながら言った。
「男子だよ……………」
「男子に落ちつかない?それは本当に嫌いなんじゃ?人として…………彼らは多感な時期なんだから気をつけろよー」
的をあまり得てない会話だが、仕方がない。松浦自身が分からないのだ。
岡田は結論の出ない話も聞ける親切な男だった。
「そうだな」
「まぁあと1年もすれば彼らも卒業何だし………あまり深く考えるなよ」
岡田は2杯目の生を注文した。松浦に自分の生まれたばかりの娘の写真を見せた。岡田の妻がのSNSに投稿している写真である。
松浦は自宅に帰り、ふと梨央を検索した。
「あった」
梨央の私生活で撮った写真─────
知ってる生徒も何人か映っている。
男とも、女とも気軽に頬を寄せて撮っている。オシャレな私服写真や、誰が撮ったのか
プロが撮ったようなこった写真もある。
芸能人でもないのに1万人のフォロワーがいる。
梨央が写真を投稿すると
コメント欄がいっぱいになる。
『りお君エモい!』
『THANK YOU 』
『梨央君愛してます♡』
『僕も愛してます♡』
『梨央君、抱いて!』
『僕が抱かれたいです!』
『えぇいんですかあ?!』
『優しくしてね♡』
こんな感じで女性のフォロワーと絡んでいる。
全員のリクエストに返信するせいでコメントが凄い数になっている。
沢山のフォロワーの中にやたらと梨央に絡む奴がいた。
『りおー俺とも遊ぼう』
始めはそんな感じだった。
『無視ですか?りおーりおーりおー』
悪意が段々芽生え始め狂気じみてくる。
『りおーりおーりおーりおー無視ですかー』
梨央は相手にしていない。
(タチが悪い。まさかこれがあの元彼?)
(何で俺も生徒のネットストーカーみたいなことやってんだ?)
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