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 フェンスに背を預けた時の軋みはあの頃と変わらなかった。  その数秒前から近づいてきていた唸りが、足を止める頃には轟音となって私の元へ届く。着陸した航空機は悠然とタキシングして、やがて大きくカーブすると米軍基地の奥へ消えていった。  基地に航空機が離着陸する時刻は非公開のはずだが、滑走路がよく見える歩道の上では報道カメラマンよろしくレンズ越しに機体を追いかけている人々が固まっている。彼らの背後を歩行者が顔をしかめながら歩き去る。航空機とカメラマン。私が子供の頃から変わらない取り合わせの風景だ。  私の生まれ育った街は、米軍基地の街として知られている。自転車で一時間もあれば一周できる基地の周りを、公園や住宅地、アメリカナイズされた古びた個人商店が取り囲んでいる。私の実家もその中に含まれているが、帰ってきたのは大学卒業以来実に十三年ぶりだ。  進路のことで喧嘩したままの両親に会いに来たわけではない。私の勤める会社が出す音楽雑誌に載せるインタビューを採りに来たのだ。
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