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ここはどこで私は 1/2
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先輩こと、丸木 斐文はかなりのイケメンだ。
これだけ容姿に恵まれているのだから、さぞ、イージーモードな人生。
……かと思ったのだが、そうでもない。
演技はからっきし、歌えばリアルジャイアン。写真を撮ろうとすると、なぜか白目をむくという残念具合。
こんな調子だから、芸能関係やモデルに誘われたとしても、誘った側が後悔するハメになる。
顔のせいで振り回されて、一方的に期待されて一方的に失望される。
大学時代の先輩は、まぁ、いろいろあって荒れていた。
先輩の恋人が女子に攻撃されて、さらに輪をかけて荒れていた。
かくいう私は、騒動を尻目にバイトに励んでいる日々で、それどころではなかったのだが。
「先輩の恋人が、先輩と釣り合っていない? で、なにそれ美味しいの?」
ぶっちゃけ、どうでもいい。という態度が、私が思っている以上に結構悪目立ちをしていたらしい。
先輩の恋人である、千石アンナ先輩に気に入られて、私は丸木先輩とも交流をもつようになったのだ。
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目が覚めたら……。
「ここは天国ですか?」
渓流が一望できる部屋で目覚めて、私は呟いた。
秋になったら、真っ赤な紅葉がばあっと散って、渓流に落ちてくる風景が絵になりそうである。
「いいえ、旅館です。リクエスト通り見晴らしのいい部屋よ。シーズンオフでよかったわ。日比野ちゃん、ゆっくりしていってねっ!」
「あははは、さすが千石先輩だ」
若干オタクネタを交えつつ、艶然と微笑むのは千石先輩こと丸木アンナ夫人。
顔のパーツが品よく配置されている繊細な顔立ちに、ほっそりとした骨格が着物がよく似合っていらっしゃる。
彼女のことを地味だと、先輩に釣り合っていないと、馬鹿にしてきた連中にききたい「お前らの目は節穴か」と。
「おいひぃ」
正規の客じゃないからと前置きされていたが、出された料理は……うん、十分豪華だ。
川魚のほぐし身が入ったお粥に、野菜の浅漬け、だし巻き卵。デザートはリンゴのコンポートのヨーグルト添え。
あつあつとお粥を口に運ぶ私を、千石先輩は微笑ましく眺めている。
「よかった。おかわりが欲しかったら言ってね」
「うぃ~」
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