第2話

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第2話

 西山と一緒にいる間、密かに混乱している。  具体的には、西山という男がわからなくなっている。 「今日はさ、この店で食おうかと思うんだけどどう?」  スマホに表示されている口コミページの店名を見てすぐにピンと来た。 「ここ、おれが前に気にしてた……」 「そう。ネットで調べてみたら、隠れた名店って感じらしいぞ。地元の人は大体知ってるらしい」 「じゃあ、予約しないときついんじゃないか?」 「ばーか。この俺がしてないわけないだろ?」 「……さっすが」  茶化しながらも、内心は変にどきどきして仕方がない。 「一ヶ月、試しに恋人として付き合う」約束を交わしてから、見たことのない西山が顔を出すようになった。  恋人相手だからと言われればそれまでだが、例えば今のように優しい面が目立つようになった。元々そういう性格ではあるものの、頻度が高い。  おまけに、やたらスマートだ。つい自分と比べて落ち込みたくなるくらい、まるで女性側の立場に置かれたかのような錯覚に陥る。押しつけがましくない雰囲気を醸し出すのが原因とわかっているのに、当たり前に享受してしまう。  会社にいる時は相棒関係のままなのに、一歩外を出たらさりげなく変わる。  ……正直、やたらベタベタしてきたり、甘い言葉でも囁きまくったりするのかと思っていた。西山からすれば勝負の一ヶ月、何が何でも自分に惚れさせたいはずなのだ。 「お、着いたぞ」  おしゃれ過ぎないカフェのような外観だった。木製の引戸と入口近くにある手書きの看板がいいレトロ感を醸し出している。深緑の外壁に沿って並べられた椅子に、一組のカップルと男性の二人組が腰掛けていた。 「やっぱ予約しといてよかったな」 「うん。ほんとありがとな」  こちらを得意げに振り返る西山に、少しだけほっとした。
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