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今日もまた駄目かもしれない。
降ったり止んだりを繰り返している雨空を見上げ、梅雨払い師のフルヤは深い溜息を吐き出した。
梅雨払い師の仕事は主に、本格的な夏を迎えるために欠かせない梅雨を追いやることだ。梅雨をちゃんと払えないと、いつまでたっても夏はやってこないだけでなく、雨の日ばかりが続いてしまう。それを阻止するために、梅雨払い師といわれる特殊な仕事を一部の家系が代々行ってきていたのだった。
フルヤは優秀な梅雨払い師の家系に生まれた長男だ。父は現役プロの梅雨払い師でもある。
フルヤも父の指導の元、天を仰いでは特殊な笹の葉を振りつつ、梅雨を払う儀式を行っていた。にも関わらず、雨は一向に止む気配を見せずにいた。
父のいう通りにやっているはずなのに、なぜかフルヤがやると上手くいかない。どんなに必死に笹を振っても、雨はやむどころか激しさを増す一方だった。
八月に入ってもなお、だらだらと続く雨の日に、さすがに気象庁からクレームが来ているようだった。電話越しに平謝りを繰り返す父の背中をフルヤは悔しい思いで、いつも見つめていた。
今すぐにでも父がやればいい。このまま自分がやり続けても、梅雨が明けないかもしれない。このまま来年になってしまったらどうしようと、フルヤは降りやまない空を見上げては、焦りと不安で気が狂いそうだった。
もちろん父には「自分には無理だから、変わってほしい」と頼んだ。それでも父は「いつまでも成長しないようでは困る。できないからと早々に投げ出すのは、大切な役割を担っている一族として、あってはならないことだ」と言って、決して首を縦には振らなかった。
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