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「マイルドセブン、ソフト」
私は客から言われ、レジの背後にある戸棚の2番からそれを取り出し、バーコードをスキャンした。先輩から、まずよく売れるマイルドセブン、セブンスター、キャスター、あと女性客に多いDuOとピアニッシモの位置を覚えておけばまず大丈夫と言われた。キャメルとかechoとか始めて聞くようなタバコを言われたら、戸棚の何番に入れてあるタバコなのか、客に探して貰えばいいとのことだ。とりあえずタバコ販売はなんとかなりそうだ。
コンビニのアルバイトを始めてまだ2日目。昨日は色々説明があって、それでほぼ終わった。今日は名札の“研修中”という札に助けられて、何とかやっている。
「じゃあ、飲料水補充に行ってきますね」
「あっ、はい」
2歳程年下の高校生の先輩がそう言ってバックヤードに入り、清涼飲料水の補充を始めた。この時は緊張する。一人で店番をしているような気分だ。時刻は21時をまわっている。厄介な客が来なければいいが・・・。
ガシャン。
ドアが開き、閉まる音がした。
「いらっしゃいませ、こんばんは」
条件反射のようにそう口にし、ドアの方を見たと同時に私は目を大きく見開いた。
大きな男だ。
中央の通路を通り奥へ向かって行く。棚越しから見ても肩から上が見える。体型によらず男はサクサクと歩き、迷うことなく棚から何かを持ち出しレジに向かって来た。私はただその一連の行動を見ていた。
トン。レジの上に商品が置かれた。私は見上げた。やっぱり大きな男だ。
「どうかしたか?」
見かけによらず、彼は優しい声をしていた。
「あっ、いえ。」
私は慌てて商品のバーコードをスキャンした。5つ。紙パックの飲み物のようだった。
「おや、新人さんかい」
「あ・・はい」
「焦らなくていい。ゆっくりやりな」
「あ・・どうも」
優しい人だ。私はそう思った。そして会計を済ませた。
「じゃあまたな」
「あ、ありがとうございました」
男は出入口を少しかがんで外へ出ていった。私はまたその様子をただ見ていた。
「大丈夫でした?」
飲料補充から戻ってきた先輩が声をかけてきた。私はとりあえず大きな男がやってきたことを言った。
「あーその人ね。毎日来るのですよ。それでいつも同じ商品を5つ買っていくのですよ」
「なるほど。常連客なのですね」
「まあ、そういうことですね」
コンビニには色んな人が来るのだなと私は思った。
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