願わくば雨模様

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「君、危ないね」 雨がぽつぽつと降り始めた、薄暗い街角。 いつも通る道端に露店を見つけたのは、今日が初めてだった。 露店に座っているお婆さんに、私は聞き返す。 「え、私ですか?」 真っ黒な服に身を包んだ私は、たしかに危ない人かもしれない。 明日は明るい色の服でも着ようかな。 「いやいや、そういう危ないじゃなくて」 「じゃあ、どういう危ない……?」 シワだらけのお婆さんは、気まずそうにいう。 「ちょっと悪いオーラが漂ってるよ。特別に無料で占ってあげよう」 「悪いオーラ?怖いなぁ……」 促されて、私はおずおずとお婆さんの前に座った。 占いは毎朝テレビでしているような星座占いや、血液型占いくらいしかしたことがない。 いい結果が出るといいんだけれども……。 お婆さんは私の手に虫眼鏡を当ててじっくり観察する。 あまりにも真剣に眺められるものだから、なんだかいたたまれなくなってきてしまうほどだ。 「どうですかね……?」 お婆さんは、目をパチパチとしばたたかせてこちらを見た。 そして、やれやれというように首を振る。 「そんなに、ひどいんですか……?」 「いやいや、そういうわけじゃないよ」 お婆さんは、取り繕ったような笑みを浮かべた。 「ちょっとだけ、近い未来に悪いことが起きると出ていてね」 「悪い、こと……?」 悪いことって例えば、交通事故にあうとか? 病気にかかっちゃうとか? 「さぁどうだろう、今は詳しく見えないけれども。 悪いことを回避できるラッキーアイテム、買っていくかい? 今なら特別に安くしておくよ」 そう言って目の前に出されたのは、手のひらサイズの小瓶に入った水だった。 「これが、ラッキーアイテム?」 「ああ。百円にしておこう」 「じゃあ、買おうかな」 何を思ったのかわからない。 見るからに怪しいアイテムだとはわかっているのに、なぜかそれに惹かれてしまっていた。 私は操られたかのようにその小瓶を買うと、ふらふらと家に帰ったのだった。
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