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走って走って…。一人きりで、庭にある小さな池を覗き込む。
ぐしゃぐしゃな顔は冗談にも、整っているとはいえなかった。
肌は長い間の旅でボロボロ。
髪の毛だって輝きを失っていて、目の下にある隈は消えようがない。
その姿に涙が出た。
「私…全然綺麗じゃない……こんなの、誰が好きになるっていうのよ。」
お姫様の絹糸のような髪を思い出す。真珠のような肌に、傷一つない細い指。
美しい人ってあの人を指すのだろう。
魔法でも、自分の容姿を根本から変えることなんてできない。
わかっていたけど。
自分がどうしようもなく惨めだった。
そして、そのまま私は、誰にも告げることなく、祖母が待つ我が家へと足を向けたのだった。
それから、一月の時が経つのはあっという間だった。初めての失恋の傷は痛くて、まだ癒えてはいなかったけど、祖母が変わらずにいてくれて少なくとも静かに時が過ごせた。
「ランカ。こっち手伝って頂戴。これをかき混ぜるだけで、後はできるけえね。」
「はーい。おばあちゃん。でも、これなんの薬?私見たことないよ?」
「これかい?これはねえ…必要になったら教えちゃる。あんたのやから。」
「こんなに沢山の薬があるのに、美人になれる薬はないのね。」
「…美人になるための薬なら、私は知ってるがね。」
「そんなのあるの!?作り方教えてよ。……ん?なんか外から音が。」
「お客かもしれん。ランカ。でておくれ。」
外からは、戸を叩く音がした。山の中の小さな家に訪ねてくるのは、精々近くの村の村人くらいだ。
薬か何かがきれて、買いに来たのかとランカは扉を開けた。
「どちら様ですか……ってレン……?」
そこには、ほんの少し前まで仲間だった、レンの姿があった。
「どうしたの?なんでここに……?」
驚いたまま口にすると、レンの顔が急に近づいた。
「……よかった。ランカ。」
そう言って、レンは私を確かめるように抱き寄せたのだった。
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