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ある日、私にお城から使いの人がやってきた。何でもこの国の皇太子が私と結婚したいから早急に登城せよとの命令だった。
「皇太子といえば、優しい性格と甘いマスクでこの国で一番の人気者じゃない。どうしてわたしのような貧乏な家の村娘に声がかかるの?だいいち、この国には年頃の娘は星の数ほどいるのに。皇太子だって私の事なんか知る由もないのに。私はガラスの靴を履いて舞踏会なんか行ってないし、なぜ誰にも相手にされない私なんかに白羽の矢が立ったのかしら?」
「どうしよう、行かなければ殺されるのかしら。でも、ノコノコと登城して、私の身なりをみたらきっと怒られるわ。だっておしゃれな服なんかひとつも持ってないし。でも向こうから来いって命令したのよ、登城して殺されることはないよね」
意を決しお城にむかった。私の姿を見て、お城の門番は露骨に嫌な顔をして、追い払おうとしたが、事情を説明すると、一応確かめてくれた。話が通じたのだろう、まさかお前がという顔は最後まで隠さなかったものの、なんとかお城に入れてくれた。
さすがにこの汚い恰好では王子様にお目通りさせられないのであろう、すっかり髪を整え見たこともないようなドレスに着替えさせてくれた。頭にはティアラまでつけてくれた。すっかり見違えるようになった私は、謁見の間で、お辞儀をしたまま王子様を待っていた。しばらくすると大きなドアが開き、多くのお付きの人と共に王子様が入ってきた。
「やあ、とっても長い間待ったよ。やっと会えたね。僕の事を忘れたのかい?ちょうど千年前、僕と君はお互いの親に結婚を反対されて心中したんだよ。その時、約束したじゃないか、来世では必ず添い遂げようって。私にはずっと心の中に君が見えていたんだ。君が住んでいるところも、君の日々の暮らしも、毎日のように夢にでてくる。家来に命じてそこを探させてここに来てもらったんだ。さあ、思い出してくれないか、そして顔を上げてくれ」
頭の中に閃光が走った。そうだ、そうだった。私たちはあの時約束したんだ。どうして忘れていたんだろう。私は貧乏な家に生まれ変わり、毎日の生活に追われていたので、思い出すゆとりがなかったんだ。
「思い出しました。あれから千年、やっとお会いできました」
私はそう言って涙ながらに顔を上げて王子様の顔を見つめた。
すると私の顔をまじまじと見つめた王子様が側近にこっそり言った。
「人を間違えたみたいだ」
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