1/6
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

 若い男と幼子が、山道を下っていく。 「お腹すいたなー。ねえカイ、今度の街はいつまでいられるの?」  六、七歳に見える男の子が、黒目の勝ったまるい目で男を見上げた。粗末な衣服に、肩には身のまわりの物が入っているのであろう小さな袋。 「金がたまるまで」  こたえた背の高い男は、二十代半ばといったところか。子どもと同じ黒髪だが、このあたりでは見かけない白い肌と、彫りの深い顔立ちが人目をひく。伸ばしっぱなしらしい長い前髪からのぞく、気怠く細められた瞳も、よく見れば淡い色。背中には大きな荷物を担いでいる。 「たまにはゆっくりしようよ。僕、友だち作って遊びたい」  男の子の言葉に、 「……ここでは無理だな。ガキは多分、皆逃げちまってる」  眼下の街に目をやりながら、カイと呼ばれた男がつぶやいた。  かつては栄えていた街並みは、その多くを爆撃で失っている。たまに、崩れかけた建物の間に人が出入りするのが見えるのは、わずかに残った住居や商店だろう。 「……ほんとだったんだね。“レジスタンスの街”って」  街を見下ろし、子どもがため息をついた。 「“雲の街”ってのもな」  反政府活動の拠点として知られるこの街は、男の言う通り、地形のせいか曇りの日が多いことでも知られている。 「……降られる前に行くぞ、チビ」 「もー、チビって呼ばないでよ。僕、もうすぐカイより大きくなるんだからね!」 「そいつは楽しみだ」  厚く垂れこめた雲の下、ふたりは破壊された街へと歩みを進めた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!