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「気にしないで。よそから来た人にはいつもこうしてるの。あたしたちも、ここのみんなに親切にしてもらったから」  鮮やかな色のスカーフで包んだ黒髪を揺らして、少女が朗らかに笑った。 「あたし、リェンっていうの。去年、父さんと首都から来たんだ。よろしくね」 「リェンお姉さん、ありがと! 僕はトト、こっちはカイだよ」  リェンを見上げて、少年が嬉しそうに言う。 「ちゃんと挨拶ができて偉いね、トト」  トトの頭を撫でたリェンが、 「それに引き換え、ごめんね。いい大人なのに、うちの父さんはあんなでさ」  隅のテーブルに目をやって、苦笑した。  そこには、虚ろな目をした痩せた男が、両手で酒の入ったグラスを抱えて座りこんでいた。時折、震える手を上着のポケットに入れると、取り出した細い鎖を握りしめる。 「母さんが死んでから、ずっとあんな調子。ここに来たら、少しはしゃんとするかと思ったんだけどねえ」  首を振って言うリェンに、厨房から声がかかる。 「はあい! じゃあまたね。トト、カイ」  店内の喧騒に負けない大きな声でこたえると、少女はきびきびとした足取りで厨房に戻っていった。
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