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プロローグ
世界にはステージに立つ人間と立たない人間がいる。
圧倒的にステージに立たない人間のほうが多い。
世界にはステージに立つ人間を応援する人間と応援しない人間がいる。
それは……どちらのほうが多いんだろう?
少なくとも、私はステージに立たない人間で、立つ人間を応援する側でさえなかった。
……はずなのに。
今は、テレビの画面越しに、スポットライトを浴びているその人のことを、息をひそめて見つめている。
彼が笑顔でこちらに向かって手を振る。
思わず、振りかえしたけれど、私に対するものではないとハッとし、手を下ろす。
「なあに? 恥ずかしがらずに手を振ればいいのに」
恋人が、私の膝を枕にゴロンと寝ころぶ。
途端に羞恥で頬が熱くなる。
「やだよ、恥ずかしい」
「じゃあ、俺に向かって振ってみてよ。萌ちゃんのためだけにファンサするからさ」
「もう、ファンサだなんてどこで覚えたの……」
手を振る代わりに、彼の髪を優しく撫でる。
膝枕にご満悦な様子の彼。
テレビの向こうでは笑顔で踊り、歌っている。
「まさかねぇ……」
フッとため息をつく。
まさか自分の恋人がアイドルとして、ステージに立つことになるとは。
ただし、ニセモノですが――。
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