プロローグ

1/1
前へ
/45ページ
次へ

プロローグ

世界にはステージに立つ人間と立たない人間がいる。 圧倒的にステージに立たない人間のほうが多い。 世界にはステージに立つ人間を応援する人間と応援しない人間がいる。 それは……どちらのほうが多いんだろう? 少なくとも、私はステージに立たない人間で、立つ人間を応援する側でさえなかった。 ……はずなのに。 今は、テレビの画面越しに、スポットライトを浴びているその人のことを、息をひそめて見つめている。 彼が笑顔でこちらに向かって手を振る。 思わず、振りかえしたけれど、私に対するものではないとハッとし、手を下ろす。 「なあに? 恥ずかしがらずに手を振ればいいのに」 恋人が、私の膝を枕にゴロンと寝ころぶ。 途端に羞恥で頬が熱くなる。 「やだよ、恥ずかしい」 「じゃあ、俺に向かって振ってみてよ。萌ちゃんのためだけにファンサするからさ」 「もう、ファンサだなんてどこで覚えたの……」 手を振る代わりに、彼の髪を優しく撫でる。 膝枕にご満悦な様子の彼。 テレビの向こうでは笑顔で踊り、歌っている。 「まさかねぇ……」 フッとため息をつく。 まさか自分の恋人がアイドルとして、ステージに立つことになるとは。 ただし、ニセモノですが――。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加