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怪訝な顔を向けても笑顔で避ける彼女は、さっき私が書き置きしたメモを放り投げて、軽快なステップと共に近づいてきた。
「ちょっと。そのメモ、無くさないでくださいよ」
「あのね、今日、そろそろイケメンが来るわよ!」
「………は?」
「毎月ね、必ず奥さんのために花を買いにくるイケメンがいるのよ〜〜!」
一体、急になんの話なんだ。私の冷めた眼差しも気に留めない仁美さんは、言葉を続ける。
「先月は梶ちゃん丁度シフトかぶってなかったからね!私としたことが、伝え忘れてたわ。20日が記念日らしくて、いつもこのくらいの夕方の時間に寄ってくださるのよ。毎月記念日を祝うとか心までイケメンで泣いちゃうわ」
「…はあ、そうなんですか」
「え?まじでくそイケメンなのよ?"イケメン×花×笑顔=世界の幸せ"よ?」
「興味ないです」
くそがつくイケメンってなんなんだろう。「女子高生がイケメンに興味ないとかあるの…?」と、何故か立ちくらみを起こしている仁美さんを無視して、私は相変わらず土の渇き具合を確認しながら、植木鉢に咲く花へそっと、水をやる。
「まだ若いのに大学で教授されてる方でね、知的で麗しくてもう毎月の楽しみなのよ!年齢的にはイケオジになるのかもだけど“オジ“じゃ無いのよあれは…!」
「きゃぴきゃぴ」そんな文字が後ろに見える仁美さんのはしゃぎ方は、まるで少女のようだ。熱量が凄い。
「光さんが泣きますよ」と言う言葉はぐっと堪えて再び花へと視線を落とす。
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