01.「ピンクの無い花束」

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「…桔梗が綺麗に咲く季節になってきたね」 「そうですね」 イケメンの話に全く食いつかない私に諦めたのか、隣にしゃがんで頬杖をつく仁美さんが嬉しそうに口角を上げた。 「そう言えば、カジカジって名前に桔梗の字が入ってるんだね。"桔帆"だもんね」 「はい」 「やっぱそう言うの、身近に感じるもの?」 「身近ではありますかね。…ただ、」 「ただ?」 「好きでは無いです」 ――――桔梗の花も、自分のことも。 それは心の中だけで呟いて、仁美さんが何かを紡ぎかける気配を察して「バケツの水換えてきます」と立ち上がった。 それから数十分後。私は相変わらず店先に並ぶ花たちの様子を一心不乱に見つめてしまう。 花の香りは独特だ。鼻腔を擽るそれは、香水のような化学的なものでは表現しきれない複雑な奥行きがある気がする。 「…此処に、ずっと居れたら良いのに」 そうすれば私は花以外の何にも関わらなくて済むし、何も私に関わってこない。 6月は、好きでは無い。低気圧のせいか、いつも呼吸がし辛い。今日はまだ珍しく降り出してはいないけれど、分厚い灰色の雲は今にも泣き出しそうだった。ぼんやりと空を見上げて、自分の心にも灰色を投影する私の姿は、咲き誇る花々にどう映っているのだろう。 滑稽だろうか。情けないだろうか。でもそれでも構わない。
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