01.「ピンクの無い花束」

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「―――お嬢さん。その、綺麗に咲いているお花をいただけますか?」 「っ、」 突如聞こえてきた声に身体を大きくびくつかせてしまった。座り込んだまま振り返ると、側には半袖の薄い水色のシャツに落ち着いたダークグレーのパンツ姿の男性が立っていた。ネクタイはしていなくて、どちらかと言うとラフな感じではあるけど、佇まいに気品がある。 「…い、いらっしゃいませ」 愛想も何も作られていない引き攣った笑顔で呟くと(仁美さんに殴られそう)その人は満面の笑みを私に向けた。どんよりとした天気にも、冷めた表情しかできない店員にも、あまりにそぐわないお日様のような微笑みを返されて、居心地の悪さに思わず目を逸らす。 「こんにちは。お花お願いします」 「あ、はい。えっと、桔梗、ですか?」 丁度私がしゃがんでいた方向を指差す彼に尋ねると、やはり屈託の無い笑顔のまま「そうです」と頷かれた。垂れた二重の瞳には弛み無く甘さがあるのに、真っ直ぐに通った鼻筋や形の良い薄い唇が端正な顔立ちの程良いバランスを保つ。仁美さんが言っていたイケメンとは、恐らくこの人のことだろうか。確かに“オジ“と表現するにはあまりに若く見えてしまう。
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