01.「ピンクの無い花束」

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「うちの奥さんが桔梗大好きなので。今日はそれで花束作って欲しいです」 「…色味の希望はありますか?」 「いえ、お任せします」 「分かりました」 まだまだ雑用や花の世話を覚えるのに必死な私にはアレンジもブーケも勿論作ることは出来ない。店の中で電話応対をしていた仁美さんを呼びに行こうと「少しお待ちください」と一言断って足の向きを変えると 「…お嬢さん、はじめましてですね」 妙に柔らかい声や“お嬢さん“と言う慣れない呼ばれ方に顰めた顔をうまく隠せなかった。 「はい、先月から働かせていただいてます」 「梶さんかあ。アルバイトさん?」 エプロンの左胸に付いた名札を確認したらしい男は、私の苗字を確かめるように呼んで、質問を続ける。 早く仁美さんにバトンタッチしたいのに、物腰柔らかな筈の男の会話にそのタイミングを掴めない。あまり自分のことも語りたくは無いのに。 「…はい」 「そう、若いのに偉いね。僕はいつもお世話になってる東明(しのあき)と言います」
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