01.「ピンクの無い花束」

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「仁美さん花束お願いします!!」 既に電話を終えて、ノートに顧客情報を書き込んでいた彼女に今日1番の大きな声が出た。揶揄われたことへの苛立ちを言葉にありありと乗せてしまった。 「え、何。勢いびびる。お客さん?」 「はい、いらっしゃってますよ!仁美さんが仰ってたイケメン!!」 「きゃー!東明さん!?」 「いたっ!」 決して広いとは言えないこじんまりした、沢山の花がディスプレイされる店内なのに、仁美さんは甲高い声と共に私をもはや突き飛ばす勢いで男の元へ向かおうとする。花に当たったらどうするんだ! 『毎月ね、必ず奥さんのために花を買いにくるイケメンがいるのよ』 そこでふと、男の目的を思い出した私は思わず仁美さんを呼び止めた。 「桔梗で、花束を作ってほしいと仰ってました」 「あ、本当?了解、ありがとう」 「仁美さん、あの、桔梗のことなんですが…」 「…どうした?」 別に私が気にすることでも無いのだけど、"偶然知っていたこと"を敢えて言わないのは、なんとなく後味が悪い。こちらを目を丸くして見つめる仁美さんに、意を決して再び口を開いた。
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