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「花束を作ったのは仁美さんです。私は何もしていません」
ツン、とした冷たい声だと我ながらいつも思う。でもこうして、全てを突き放すような態度が自分の標準装備なのだ。心に刺さった棘はもう、痛みを感じられない。自分では取り除くことが出来ないところまで奥深くに侵入して、それは軽い炎症から周囲を脅かす化膿を引き起こして、きっと治療するには手遅れだ。
「ありがとう、って言われたら素直に受け取っておくもんだよ」
「……それが自分に、見合わなくてもですか」
「梶さんは大変だなあ」
困ったような言葉だけど、綺麗なパーツばかりが並ぶその面立ちは揺るがない微笑みを携えていて、男の真理はやはり読めない。
「誰かからの感謝も、自分でそうやっていちいち大きさを測って受け取るかどうか決めるの?」
「……、悪いですか?」
私には、"ありがとう"なんて言葉は滑稽なほど似合わない。もうそんなことは充分に分かっている。痛い程に自覚している。――分かっているから、私に近づかないで。
「……決めた」
「は?」
「梶さん、僕と友達から始めようか」
「結構です。始めません」
「一瞬も悩まない……」
この男、いつまで此処に居るつもりなのだろう。太陽の位置が、西へと確かに傾き始めている。
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