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プロローグ
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昨日はきっと、夜の間に雨が降ったらしい。
庭先の緑に浮かぶ透明な雫が朝の柔らかい光を取り入れてきらきらと反射している。僅かにまだ泥濘んだ土をスリッパ越しに感じながら、雨の残香が漂う空間で、この匂いはやはり、あまり好きにはなれないなと思う。何故だか胸がとても締め付けられてしまう、そういう匂いだ。
朝の6時を過ぎる前。ひっそりと寝静まった世界では、小鳥のさえずりさえ深く響いて聞こえる。サアアとホースのノズルから綺麗に弧を描いて散水される様子を見つめながら1人佇んでいると、水の跳ねる音だけが鼓膜を揺らす。
「…雨降ったなら、そんなに水やり必要無いか」
もう随分と土を潤わせておいてから今更呟いて、レバーにかけていた手を止め、庭へと続く縁側の方を振り向いた瞬間。
「――おい」
その縁側と奥の居間を繋げる障子戸に器用にもたれかかってこちらを見つめる男と視線がぶつかった。
「…なに」
あまりに無愛想なその問いかけに、私も負けじと無愛想な返答になるのはもう、いつものことだ。
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