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「お前、朝からカツ丼は重いわ。俺、受験生じゃねえんだわ」
「……嫌なら食べなきゃいいじゃん」
男が低い声で文句を伝えてくるのを右から左へ流しながら、限界まで伸びていたホースをリールへ巻き付けていく。重たいハンドルを動かす度に、キコキコと不思議な音が間抜けに聞こえていて、ホースはなかなか巻き付いてくれないし、汚れも目立つし、そろそろ買い替え時なのかもしれない。黙って私が朝のルーティンを終える様子を見つめる男が、大きく溜息を漏らすのを背中で聞いた。
「研究会は戦場だって聞いたから。勝てた方がいいでしょ」
「誰に聞いたんだよそんなこと。そんな勝ち負けねーよ」
「…誰に聞いたかなんて、愚問じゃない?」
「お前はなんでもあの人の言うこと信じ過ぎなんだよ馬鹿」
「うるさいなあ」
この朝っぱらから、なぜ折角用意したご飯に文句をつけられ、更には馬鹿という言葉まで受け取らないといけないのか。やや大きめのスリッパを脱いで、庭から縁側へと足を乗り上げた私は、直ぐ傍に立つ男を無視して居間の奥へと向かおうとする。
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