01.「ピンクの無い花束」

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仁美さんは、この花屋を夫の(ひかる)さんと経営している。花屋の朝は、想像を絶する程にとにかく早くて、まずは花市場へ仕入れに行くところから始まる。日中だってお客さんの要望に応えて注文を受けるだけでは成り立たない。その傍で今を生きる花の様子を油断することなく見つめていなければならない。実は相当な重労働も多いこの仕事を、夫婦2人だけで切り盛りするのはなかなか大変だと、丁度考えていたところでもあったらしい。 光さんは、今は車で配達に出かけている。まだ経験の浅い私は、ルーティンの仕事をこなすのも正直まだ心許ないし、無駄口を叩いている暇も無い。 「誕生日にお花くれる彼氏、どう!?王道だけど結局キュンとくるのよね〜」 「……」 「ちょっと照れながら渡されたりしたらもう100点。"イケメン×花×笑顔=世界の幸せ"って古から決まってんのよね。」 「……」 「ねえ待って、この店私しか居ないの?」 特に返事をしない私に、懲りずに店の中から話しかけてくる仁美さんは「梶ちゃんは究極のツンデレなのかなあ」と好き勝手にぼやいている。 ちらり後方を一瞥すると、彼女が口を動かし続けながらも素早い手捌きでブーケを製作している姿を視界に捕らえた。水切りや湯切り(切り花が水をしっかり取り入れられるように茎を切る作業)だって、私が取り組む半分以下の時間で難なくこなしてしまう彼女を目の当たりにしているから「口じゃなくて手を動かしてください」とは主張出来ない。 「そうだ、カジカジ!!」 梶、と言うのは紛れもなく私の苗字ではあるが、あらゆるレパートリーで呼んでくるのそろそろ辞めて欲しい。
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