俺を殺してくれ

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 こーろーせ! こーろーせ!!  一団となった周りの声は、更に圧力を増して純一に襲い掛かってきた。いや、みんながみんなこうして狂ってしまったら。狂っているのは、俺の方だって事か? 声の圧力に押されながら、純一はそう考えた。だんだん頭が朦朧としてくるのがわかった。狂っちまったのは、俺の方なのか。おかしいのは俺なのか。俺が間違っているのか……?  訪問者は、ナイフを強引に純一の右手に握らせ。そして、両手を翼のように大きく広げ、純一と、自分を取り囲んだ群衆に向かって叫んだ。 「さあ! それで私を一突きに!」  その言葉が合図だったかのように、純一を押さえつけていた拘束が解けた。純一はナイフを握ったまま、よろよろと道にしゃがみ込んだが。周りから聞こえてくる声は、一向に収まる気配がなかった。  こーろーせ! こーろーせ……!  その声に引っ張られるかのように、純一はゆっくりと起き上がり。そして、目の前で手を広げている訪問者を見つめた。訪問者の目は、今や陶酔感に浸りきっていた。なんの疑いもなく、信じているのだ。純一が、自分を殺してくれるのだと。その時が来たのだと。純一は、ナイフを両手でしっかりと握りなおすと。自分の体の前に構え、それから、訪問者に向かって突進した。周りから聞こえるシュプレヒコールに、背中を押されるかの如く。  ぐしゅっ……  純一の両手を、生暖かい感触が襲った。ナイフを握った両手は見る見るうちに真っ赤に染まり、その赤い雫がボタボタと地面に滴り落ちていった。訪問者は、両手を広げたまま、恍惚の笑みを浮かべ。そのまま仰向けに、バッタリと地面に倒れこんだ。
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