俺を殺してくれ

2/11
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「いえ、そういった話には興味ありませんので」  純一はキッパリとした口調で言い放った。これであなたとの会話は終わりですよ、という意味を込めて。しかしやはり、そいつは引き下がらなかった。 「そうおっしゃられるお気持ちもわかりますが。ここはとりあえず、お話だけでも聞いて頂けないでしょうか? その上で、お断りになるのも、ご承知頂くのも。あなたのご自由にということで」  なかなか上手い語りかけだが、そんな誘いに乗って一度話を聞こうものなら、これでもかと食い下ってくるのは目に見えている。ここはひとまず、丁重にお引取り頂こう。 「いえ、結構です。話を聞くつもりもありません」  極めて事務的に、もうお帰り下さいという思いを込めて純一は言い切った。すると、相手は少し押し黙った。が、足音がドアの前から去っていく気配はない。何か次の手を考えてるんだろうか? 思った通り、しぶとい奴だな。しかし、次にその訪問者が打ってきた手は、純一の予想をはるかに上回るものだった。  しばらくの沈黙の後。ドアの下から、すっと一枚の紙切れが差し込まれてきた。チラシか何かなのか、まずはこれを読んでみろっていうことか? 純一は無論読むつもりはなく、紙切れをそのまま外に押し返そうと思い、玄関にしゃがみこんでギョッとした。折りたたまれた紙切れの間に、紙幣が挟まれていたのだ。それは、一万円札だった。 「な、なんですかこれは?」  さすがに純一も動揺を隠せなかった。一体どういうつもりだ。これをどうしろっていうんだ? まさか、そのまま俺にくれるっていうわけでもあるまい……?
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!