俺を殺してくれ

6/11
前へ
/11ページ
次へ
 折れ曲がった指と顔に張り付いたような笑顔に、純一はかすかに恐怖を覚えていた。今度は何も挟む隙を与えず、純一はドアを、バタン! と乱暴に閉めた。 「帰って下さい! あなたを殺すつもりなんてありません! そ、その指の事は俺の責任じゃないですからね!」  閉めたドアに背中をつけ、純一は叫ぶように言い放った。あれはあいつが無理やり指をドアに差し込んできたからいけないんだ。俺が悪いんじゃない! 自分に言い聞かせるように、純一は心の中で何度もそう繰り返していた。しかし、目の前に突きつけられた、あのぐにゃりとした指の形は。目をつぶっても、鮮明に浮かび上がってきた。  なんなんだ、一体なんなんだよあいつは……? 見たばかりの悪夢を振り払うように、純一は首をふるふると横に振った。すると。ドアの外に、訪問者の気配がなくなっていることに気付いた。  あれっきり、語りかけてくる言葉も聞こえてこない。とうとう諦めてくれたのか……? 純一はかすかな期待を込めて、ドアをそっと開けてみようとした。その、時。    がっしゃーーーん!  大きな音を立てて、ガラスが割れる音が響いた。その音は、純一が今いる部屋のドアとは、ちょうど反対側の方から聞こえてきた。まさか。純一は急いで音のした部屋に向かった。そこで純一は、先ほどの折れ曲がった指以上に、信じられないものを目の当たりにした。   がしゃーーん! がしゃーーーん!  あの訪問者が、部屋の外から窓ガラスに、自分の頭を打ち付けていたのだ。何度も、何度も。頭突きをかますように、思い切って。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加