俺を殺してくれ

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 割れたガラスは部屋の中に飛び散り、そして訪問者の額は、打ち付けたガラスで切ったのであろう、幾筋もの傷口がパックリと口を開け、そこからダラダラと血を流していた。それでも訪問者は、血に染まった額で、ガラスに頭突きを繰り返していた。 「私を、殺して下さい! 殺してくれ! 早く! 早く!」  そう叫びながら窓ガラスに頭突きをし続けるそいつの姿に、純一は完全に固まっていた。狂ってる。こいつは狂ってる……! 純一は震える手で、机に置いてあった携帯電話を取り上げ、警察に電話しようとした。こいつは危ない。これ以上放っておいたら、何をされるかわからない! しかし、純一が怯えながら、1、1、0と番号を押すよりも速く。訪問者は、頭突きで割った窓ガラスに向かって、今度は体当たりをしてきた。  ぐわっしゃーーーん!  キラキラと輝く、無数のガラスの破片と共に、そいつは部屋の中に転がり込んで来た。そして、むっくりと体を起こすと。その、血まみれになった顔を、携帯を握り締めたまま固まっている純一に向け、ニヤリと笑った。 「さあ、早く私を! 殺して下さい!」   「うわあああああああ!」  純一は自分でもビックリするような叫び声を上げ、そこから逃げ出した。さっきまで頑なに閉じていた部屋のドアを開け、外へと飛び出した。勘弁してくれ、もういい加減にしてくれ! 靴も履かないまま、純一はアパートの部屋を一目散に後にした。 「どこへ行くんですか!」  純一の後から、あの「声」が追いかけてきた。純一は振り返らなかった。振り返るのが恐ろしかった。
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