鏡よ 鏡よ 鏡さん

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 ため息を吐いてアシンメトリーのロココ調デザインが印象的な、気品のある古いドレッサーの前に座った。寝る前に長く伸びた黒髪をとかして眠る。  ハイカラな先祖が使っていたという、使い古しのアンティークドレッサー。高級木材マホガニーを使用しているらしい。濃茶の落ち着いた雰囲気のものだが、随分古いからすり傷やら諸々あちこちにあり、傷んでいる箇所が多い。  それでも丁寧に使われてきたからまだ鏡面は美しく、ドレッサー自体は鈍い光を湛えている。  ドレッサーには引き出しが三つ、真ん中が大きく、左と右が対になっていてそれよりも少し小さい。木製部分には美しい木目が見え、木ならではの味を醸し出している。そして正面に大きな鏡。草花をモチーフにしたレリーフに鏡全体が覆われており、まるでおとぎ話の大鏡のように思えた。  その前で私は思わず呟いた。 「鏡よ 鏡よ 鏡さん  この世で一番美しいのは だあれ?」  絶世の美女なら、彼氏にフラれたりすることも無いだろう。  本当に羨ましい。本物の鏡なら、どんな名前が告げられるのか知ってみたい。そして落ち込むのだろう。どうせなれっこないのだから、と。 『お前でない事は確かだな』  ん?  何か聞こえた?  
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