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天の国があなたを選んだ理由
二十一世紀の世紀末に起こった第三次コロナウイルスの災いは地球上に、一億人を超す死者をもたらせた。
それにも関わらす、天国や地獄に運ばれてくる死者が一万人にも満たないというのは、天国と地獄を司る「天の国」にとって由々しき問題であった。
過去に於いては、黙っていても、ニンゲン達がその生命を失えば、殆どが天の国に送り込まれてきた。通称「天国」は、地の国・・・即ち、地球に住むニンゲン達にとって、死⁰l8いいいいいいいいいいいいいいいいいお0099後に行くべき、あこがれの場所であった。
死後「天国」に行く為にニンゲン達は、生きている間、善行を施せと教えられ、実行すべく心がけてきたのである。
天国に来た善人たちをねぎらおうと、舞踊や歌謡などの特技を持つ天女たちが、手持無沙汰になる日々が続いているというのだから、その閑散ぶりが窺える。
問題は天国だけではない、対極にある「地獄」にしても、状況は同じである。地の国から送り込まれる死者の極端な減少のために、地獄の釜の火も 土日は消しておこうということになったらしい。
これらは、天国、地獄とも、過去に経験したことのない問題を引き起こしている。
・・・失業である。
一部の天女たちは、カラダと時間をもてあまし、夜な夜な地の国に小遣い稼ぎに出ることがあるという。
あなたが、もし、過去に一度も女性に言い寄られたことのない人生を送っていたが、シンジュクあたりのクラブで、初見のとてつもない美人に言い寄られ、一夜を誘われたら、「あなたは選ばれた」と思って間違いない。
そして、あなたは近いうちに、「あの世」とやらからお呼びがかかるだろう。
天の国があなたを選んだ理由は明白である。
一度、天女に誘われたあなたは、天の国で、その天女の僕として体が朽ち果てるまで仕えることになる。
さて、ここで、天国、地獄にこのような切実な問題をもたらした要因を簡単に述べておこう。
近い将来、天国、或いは地獄に移住する人々にとって参考になることもあると思う。
なぜ、天国、地獄への移住が減ってしまったのか。
それは、昨今、やたらに造られ始めた「宇宙基地」の問題がある。新しい居住空間として造り出される最近の宇宙基地は、一万単位の人口が住める壮大な都市機能を持っている。
或いは、田園生活を希望する人たちには、緑豊かな四季を提供する宇宙基地も近年、誕生した。
死を迎えたヒトタチにとっては、壮大な宇宙空間を望みながら死後を過ごすことができ、地球で、狭苦しい墓場の下に閉じ込められることもない。その上、霊柩列車も全て費用先方もちで連日運航されている。
その上、もうひとつの、天の国にとっての脅威は、宇宙の幾つかの惑星が地球環境を構築することに成功し、積極的に、ニンゲン達の移住を受け入れ始めたことである。
これら新しいニンゲン達の居住空間、大規模な宇宙基地と、地球環境を整えた惑星は、今までの天の国にない、さまざまのサービスを提供してニンゲン達の移住を勧誘している。
そもそも、天の国は未だに、死後のニンゲンしか扱わないのに対し、宇宙基地と地球環境をもった惑星は、生きているニンゲンを引き受けるのだから、基本方針が異なる。
この両者、壮大な発想による宇宙基地と地球環境を備えた惑星は、地球上のニンゲン達だけの経験や頭脳でできるわけがない。
究極の人型ロボット、「スマートロイド」の頭脳と指導があって、初めて成し得たのである。
最近の統計によれば、地球の一部の地域では、ニンゲンとスマートロイドの人口比率は、後者が30%に達しているという。三人に一人はスマートロイドということになる。
スマートロイドが、総じて美女、美男であることを除けば、両者を外面から見分けることはまず難しい。
特に、最後の問題として残ったのが、両者の間で子供をつくることが出来ないだろうかということであった。
ニンゲンとロボットの間の子供づくりは、可能になればノーベル賞どころの話でないのは、想像がつく。
しかし、それも「物語」に語られる時代になりつつある。
筆者の知る範囲を語るとすれば、某天才スマートロイドが、あるニッポンジン少年の力を借りて、ある女性のスマートロイドにニンゲンと同程度の性感帯を付与することに成功したのが、両者の結合を可能にした端緒になったと言われている・・・・。
非常にデリケートな問題に筆が行きそうなので、スマートロイドの件については、ここまでにしておく。興味のある方は、スマートロイドについて語った資料が地球の某ライブラリーにあるとのことなのでそれを参考にして頂きたい。
宇宙基地にしても惑星にしても、これら新しいニンゲン達の居住空間は、今までの天国にない、新しいサービスを提供してニンゲン達の移住を勧誘している。
そもそも、天の国は、死後のニンゲンしか受け入れないが、新しい居住空間は、生きている人間を誘致し、そこで、時が経てば死の世界へ渡ることになるのである。
当初、宇宙基地にしても惑星にしても、移住に要する費用は一人当たり三千万アメリカドル(令和換算で約三十億円)と言われていたが、科学の進歩はすさまじく、数十年の間に十分の一にまでさがり、クレジットでも可能になったのである。
ここに記すまでもないが、過去に於いては、ニンゲン達がその生命を失えば、、そのすべてが天の国に送り込まれてきた。
所が、新設の宇宙基地や惑星に移住したニンゲン、及びともに移住してくるペットたちは、移住した先の環境、ルールに従って生を全うし、生を終わると、それぞれの葬られ方で、死後の世界に送られる。
従来の天国や地獄に送られることは、まずないといっていい。
最新の宇宙基地や惑星では、そもそも、死後の世界という考え方が薄れているので、必然的に、天国や地獄といった考え方がない。特に惑星の場合、移住を勧誘する時点で、生は永遠と考えられており、死は選択項目になっている。
地の国・・地球では、国際連合により、各国ともスマートロイドの比率は最高50%までということが決められているが、移住を勧誘する惑星や、最新の宇宙基地では、将来的に、それもあまり遠くない将来に、すべての住人がニンゲンとスマートロイドの「混血」に代るだろうと言われている。
これら新しいニンゲンの生き方を提案している宇宙基地や惑星の誕生は、”死”に対する考え方を変えてしまっている。
死は、むしろ、あこがれの世界になりつつあるのである。
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