予言

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予言

 よく当たると評判の占い師、(つむぎ)イトの占い館は、今日も行列が絶えない。予約も半年先まで埋まっていて、圧倒的人気を誇っていた。  そんなイトの店に、今日も迷える子羊がやってくる。 「取引先にいる男性に恋をしていまして。できればお付き合いしたいんですけど……」  自信のない様子がしゃべり方にも現れているうら若き清楚な乙女、村井亜美(むらいあみ)。  ろうそくをモチーフにした照明が輝く部屋の雰囲気が、亜美の不安を増幅させていた。  大きなフードをかぶり、仮面舞踏会のようなマスクを着けたイトが見つめる。 「その方、とても魅力的な方なのでしょうね。あなたのお顔を見ればよく分かりますわ」  小さな口から紡がれるささやきが、ミステリアスな雰囲気と相まって客の想像力を掻き立てる。それもまた人気の秘密で、マスクを付けているのにもかかわらず、「美しすぎる女性占い師」と称されたこともあった。 「よろしければお相手のこと、もう少し教えていただけないかしら? お名前とか年齢、お仕事、分かる範囲で構いません」 「あ、はい。名刺があります」  性格と同じ控えめなバッグから名刺を取り出す。 「倉科健治(くらしなけんじ)さん、銀行にお勤めなのね」 「はい。年齢まではちょっと、分かりません。たぶん20代かと……」 「あら、銀行と同じ苗字?」  イトは純粋に、亜美の想い人の名前と、名刺に乗っていた銀行名との一致に興味を持った。 「……はい、実は倉科さんは倉科銀行の御曹司でもあって。私なんかとは天と地の差が。こんなんでなんとかなりますでしょうか――」 「大丈夫ですわ!」  言い終えるか否かのタイミングで亜美の両手を強く握りしめるイト。 「私にご相談した時点であなたはもうゴール間近! 残りのひと押しを今からお伝えします!」  熱意と強い握力に亜美は圧倒され、心臓を掴まれたかのように固まった。 その様子を見てすぐにイトが姿勢を正した。 「私としたことが失礼しましたわ。願いの実現が間近な方を目の前にすると、どうしても興奮してしまって。ごめんあそばせ」  気を取り直し、イトは目の前に置かれた水晶玉に手をかざした。すると水晶玉は、イトに反応してほんのりと輝き出した。イトの瞳にその輝きが反射する。 「そう……。そうなのね……。ええ、分かったわ……」  水晶玉と友達のように対話するイトの姿に、亜美が若干の不安を覚えていると、それを見越したかのように亜美を見つめ直した。 「いいですか亜美さん? これから私が言うことをよく聞いてくださいね……」
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