君は王子で俺は姫

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「武田、真面目にやれよ!」 「…真面目だよ。」 山下の怒号に反論するも、弱々しい。なんせ俺の演技は下手過ぎる。とても文句を言える立場ではない。 稽古が始まって数週間。本番が差し迫っている中、俺は皆の足を引っ張りまくっていた。そりゃそうだ。演技なんてやった事ないのだ。小学校の学芸会だって裏方だった。なんの因果か、こんな事になって…。 「武田、下手だね…。」 「間に合うかな。」 「結依様の王子見れればどうでもいい。」 「てか、山下うざくない?」 俺の演技がひどいせいで、日に日に悪意や焦りが教室を滞留していく。いつも仲良くしてる奴等も心配そうに此方を伺っているが、成す術が無いようだ。 別に手を抜いてるわけではない。漫画も読まずに台詞を覚えたし、動きもわかっている。 しかし、彼女の輝きには遠く及ばない。それがきっと演出家気取りの演劇部員をイラつかせるのだろう。 「まあまあ、落ち着いて。」 唯一の救いは、皮肉な事に牧野だった。いつも俺を庇い、場をおさめてくれる。 「しばらく、武田君とマンツーマンで稽古するよ。それならきっと間に合う。」 彼女は溌剌とした声で皆に語りかける。それすらも芝居の様だ。女子だけでなく、男子も見惚れている。選ばれた人間とはこういう人なのだ。 山下は渋い顔をしたが、彼女の方が圧倒的に強い。結局、代役の王子がその他の人々の練習相手をする事になり、俺と牧野だけ準備室で特訓する運びとなった。 「ごめん、牧野。俺の所為で。」 「そんなこと無いよ。言う程下手じゃない。頑張ろう!」 二人きりになっても、王子オーラを纏っているままの彼女に惚れてしまいそうだ。女子達はこんな気持ちだったのか。 「先ずは、私の真似をして。」 彼女に続いて読んでみる。なるほど、まるでわからなかった抑揚の付け方が、すっと頭に入ってくる。散々、感情論だけでしばかれてきた身としては、大変有難い。 「上手だ。このまま行こう。」 この練習を繰り返し行っていく。彼女は根気よく何度も同じ場所を読んでくれた。俺も必死について行く。その甲斐あって、下校時刻には自分でも驚く程に上達していた。 牧野式の特訓が効果的である事が証明され、俺達はギリギリまでこの練習方法で行くことになった。クラスの皆には申し訳無いが、人に見られない分、気が楽だ。
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