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「ねえ、私とパートナーにならない?」
一人で熱い珈琲を飲んでいる時だった。見知らぬ女性が俺の前に座った。同じぐらいの歳だろうか。武器は刀一本のみ。いきなりの登場、いきなりの発言に小説のページを掴む指が離れ閉じるが、すぐさま相手の情報を読み取る。
「えっと、いや、すみません。無理です」
「どうして?」
「どうしてって、何で受け入れると思ったんですか」
「そりゃ私の顔好きでしょ、山下くん」
「え〜自信ありすぎて怖い」
ポニーテールを揺らし彼女なりの可愛いポーズでキメているが、俺は気にせず珈琲をすすった。
★★★★★
化け物退治を生業としている山下幸人は、最近新しいパートナーが出来た。
「ユキくん、向こうのゾンビ倒したよ!」
「山下くんから名前呼びになってるんだけど」
「細かいことはいいじゃん」
「えぇ〜」
人の話を聞かず、つきまとう女・星野ノバラのペースに乗せられ静かな日々を失ったが、予想より仕事はテキパキできる。
「ニク、ニクくれぇ」
「俺の方もこれで最後だ」
横たわっていたゾンビに斧で最後のトドメをさす。やはり、ゾンビは二度殺さないといけない。殺せたと思っても生き返るのはゾンビ映画の鉄則だ。
「仕事終わったし焼肉食べに行きましょう!」
「血みどろスプラッター見た後に焼肉はナシ」
「肉!肉!焼肉食べたい!」
「先に報告書だ」
「先ということは終わったら焼肉だ」
「分かった分かった」
化け物退治は一つの仕事として国で認可されている。俺は幽霊から未知の生き物まで何でも請け負う柏木成仏会社に登録しているフリーの仕事人だった。
ノバラは訓練課程が終わった後すぐに俺の馴染みの喫茶店に突撃したと後で分かった。まだ使えないド新人は度胸があるのか何も考えていないだけなのか今も分からない。
「お疲れ様山下くん、星野さん」
「柏木隊長、お疲れ様です」
「お疲れ様で〜す」
フリーランスの仕事人に化け物情報を紹介してくれる柏木早苗は柏木社長の娘だ。いくつかの窓口があるが、仕事の手際がいい彼女がフリーランス窓口担当でラッキーだった。
「ゾンビウイルスを盗んだ男がうっかり瓶を落としてゾンビになっちゃうなんて、ミイラ取りがミイラに、だね」
「ミイラにゾンビってややこしい」
「星野さんには難しい話だったかな」
報告書と引き換えに領収書を受け取る。記載された金額は口座に振り込まれるため、給料を狙った輩に襲われなくて済む。
「安い、安すぎる」
「新人から見たら高い方だよ。ゾンビウイルスの感染源を倒したのは山下くんだから金額が安いのは妥当」
「むむむ」
今より上手く仕事をするよう言ったらノバラの頰が膨れたので、伸びた爪で刺した。
「いたっ」
「ゾンビウイルスの除去や菌の捕獲については掃除屋に頼んでるんで、そっちで確認して下さい」
「うん、そうするよ。ゾンビウイルスの感染は無いみたいだけど、一応検査結果は家に送っておくよ」
「ああ」
★★★★★
「今思ったんだが」
「何ですか?」
新発売されたナタデココ入りレモンジュースを飲みながら目の前に現れたマスク人間を無視してノバラに問いかける。
「どうしてパートナーに俺を選んだ」
「今更⁈」
「なんとなくな。バッター構えてのホームラン狙い!」
「あっ!新しく買ったバット」
「いい武器だろ」
斧以外の武器も使ってみようかとホームセンター・矢崎で買ったのだが、上手く給料泥棒狙いのマスク人間の顔面にヒット出来た。
「ヤス!くそっ、金寄越せ!」
「だから現金その場で貰うの嫌なんだよな」
「生活費下ろした日に襲われるって災難ですね。残り3人、私が倒すので焼肉奢ってください!」
刀を抜きななめ切りする。先陣きった二人が倒され怒りに満ちた表情で攻撃してくる。鎖鎌を刀に巻きつけた男は引っ張り刀を取り上げる。しかし、その隙をノバラは見逃さなかった。
「囮だっつーの!」
懐からナイフを三本取り出し素早く投げる。額に見事刺さりノックダウンした。
「ユキから教わった隠し技」
「普通」
「評価厳しい」
「ナイフ使いにはベタな技だからな」
「ソウデスネ」
「飲み込みはいいから色々試したらいいよ」
「急に優しい。私をパートナーにしてくれたのはそこですか?」
「取り消しだ。それにしつこかっただろ」
「そうでしたっけ?」
「さっさと寿司屋に行こう」
「焼肉屋ですよユキ」
ナイフの血を拭き取り馴染みの焼肉屋に入る。マスク人間は二人が食べ終わった頃には姿を消していた。再生能力が他より高い奴だろうと推測をつけていたので山下は驚かずに一人帰った。
「ユキ〜もう食べれません」
酔っ払いながら少し焦げた肉を口に入れる。
「お客さん、山下さんはお金払って帰りましたよ」
「私を置いていくな〜ほんと何考えてるか分からない人だよね」
「僕は山下さんが貴方と組んでる方が不思議です」
テーブルを拭き、空いた皿をバイトの宮森が運ぶ。
「私はお腹いっぱいに食べれる程稼げる人ならいいや」
「それが理由ですか?」
「あと、見てて飽きない強さだからかな」
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