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「優ちゃん、いらないもの残しすぎだよ〜」
押入れから引っ張り出してきた数々の″いらないもの″に埋もれながら、その女の子は、この俺、相坂 優希に向かって非難の言葉を浴びせた。
「だから、この引越しを機に処分するんだろ?」
「そうだけどさぁ……もうちょっとこまめに処分してくれてれば……」
女の子は俺の返しに納得のいかないようにブツブツと文句を言いながらも、片付けを続けていた。
彼女の名前は、柊木 奏美。俺の幼馴染みにして、婚約者の女の子だ。来月から同棲を始めるにあたって、引越し前に俺の部屋の物を整理しなきゃと奏美が言って押し掛けてきたので、一緒にいらないものの整理をしていたのだが、その膨大な量に1時間ほどで根を上げていた。
「ちょっと休むか?」
「んー。まなちゃんが来ちゃうから、やっちゃおう」
まなちゃんというのは奏美の双子の姉の柊木 真香の事だ。社会人になって都会に出て行った彼女が昨日、帰省してきたというので、今日、3人で久しぶりに食事でもとなったのだ。
「真香が来るのは夕方だろ?俺は続けてるから奏美は休んでていいぞ」
「んー。やるー」
そう言って彼女は不満げな顔を浮かべながら、いそいそと片付けを続けていた。嫌ならやめれば良いのにと思ったが、また、何か言うと不機嫌になりそうなので、やめておいた。
さて、せっかく奏美が手伝ってくれているのだし、俺もしっかりやらなければと本棚に向かう。この本棚もまた、学生の頃の教科書や雑誌、小説などが雑多に詰め込まれていた。
ひとまず、もうみる事のないであろう教科書と古い雑誌をまとめて紐でひとくくりにする。結構な数なので、これだけでも一苦労だ。
そうして、あらかた分別がついた本棚の後にはほんの数冊の小説と実用書ぐらいしか残らなかった。つまりは、ほとんどいらないものが詰め込まれていたという事だ。
ふと、そのガラガラになった本棚の奥に古ぼけたノートが挟まっている事に気が付いた。
「あれ、これ……」
なんだっけ?なにかすごい懐かしい感じがする。
気になってページをめくると、ヘタクソな絵と文字が描かれていた。
「あーこれか……」
それは、子供の頃俺が描いたマンガ?のようなものだった。マンガと呼ぶことも憚られるようなものであったが、幼い俺はこんなのも必死に描いていたんだろうなと思って懐かしむ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「見て見て!おとーさん、おかーさん。まんが描いてみた!」
「あら、凄いわねー」
「おぉー凄いな優希」
「それでね、続きがね!」
「あっ、ごめんな、優希聞いてやりたいんだが、お父さんとお母さん今から用事があって行かなきゃ行けないんだ。今度、ゆっくり聞かせてくれな」
「……そっか。いってらっしゃい」
-----------ーーー
「ねぇねぇ、まなちゃん、これ見てよ!」
「優くん。どしたの?」
「マンガ!描いてみた」
「へぇー、すごいねー」
「でしょ?それでね、続きがね!」
「優くん、それよりも遊びいかない?なんか今日みんな集まって何かするらしいよ?」
「えっ、あっ、俺は……いいや」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そうやって苦い思い出を思い出しつつノートを眺めていると、
「あー!優ちゃんサボってる」
と奏美が非難の目を向けてくる。ちょっと見ていただけなのに目ざといやつだ。
「悪い悪い。でもここは、ほとんど片付いたからさ」
「それならいいけどぉ……。ところで、何を見てたの?」
「あ、いやこれは……ちょっと」
子供の頃のあまりに拙いノートを奏美に見られるのは、少し恥ずかしい気持ちもあり、思わず後ろに隠してしまう。
「あやしいなぁ……。えっちな本でしょ!」
そう言って奏美が訝しげに俺を見つめる。どうやら、変な勘違いをされてしまったようだ。
「違う、違う。子供の頃、使ってたノートだよ。なんかちょっと懐かしいなって思って見てただけだ」
「ふーん。それなら良いけどさ。こっち終わったなら私の方も手伝ってよね」
一応は、誤解は解けたようなので、ノートを机の上に置いて、奏美の所へ向かう。こちらはまだ、分別も終わってなかったので、まだまだかかりそうだ。
結局、片付けが一段落つく頃には夕方になっていた。
「やっと一段落だね」
「あぁ、ありがとな。だいぶ、すっきりしたわ」
すっかりと片付いた部屋を見回す。これで引越しへの準備にもすぐ取り掛かれそうだ。
″ピーンポーン″
ふと、チャイムが鳴った。おそらく真香だろう。
返事をしつつ、玄関に向かってみると、そこには思っていた通り柊木 真香が立っていた。
ただ、その外見は俺の知っている柊木 真香とは少し違っていた。
何が変わっているかと言われると、具体的に指摘は出来ないが、一つだけ単純に分かることがある。
柊木 真香は昔と比べて、とても可愛くなっていた。
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