決戦はショートケーキの日

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 だからその人を見たとき、違和感があった。閉店準備に入ろうかという二十時五十分、その人はやってきた。一人でやって来たのは量販店のものらしいありふれたグレーのスーツにビジネスバッグ、近寄りがたさを感じさせる涼しげな目元が印象的だった。その人は四月の新作四品のうち二品を迷わずに選んだ。  その時は、彼女と食べる分かなと深く気に留めなかった。むしろリア充いいなぁなんて思っていた。社会人になってから合コンで知り合って付き合った彼には、契約の更新がされないことを告げた数日後に別れを切り出された。半年ほどの付き合いでフラれた。以来、亜沙美に付き合っている人はいない。  亜沙美がリア充を羨ましがった二日後の同時刻帯、また彼はやってきた。あれ、と思ったのは彼が迷わずに四月の新作二品を選んだからだ。つい先日も新作二品を買って行った男性がいた。 ――あの人はベリーのムースとタルトを買って行った。売れ残ったら買おうと狙っていたから覚えてる。あの人が買って行ったおかげで新作は売れ残りゼロだったけど、亜沙美は新作を食べ逃したままだ。
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