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そして今日は残りの新作二品。眼鏡をしているせいで気付くのが遅れたが、先日の男性と同一人物とみて間違いない。
「ありがとうございましたー」
箱詰めしたケーキを渡すついでに、彼を見る。仕事帰りらしいスーツ姿、年齢は三十歳前後、シルバーフレームの眼鏡に冷たさを感じて一瞬ひるむ。この前は眼鏡をしていなかったはずだ。彼はそんな亜沙美の様子に気付かないようで「ありがとうございます」と箱を受け取って帰っていく。その背中は疲れたサラリーマンのものだ。
「亜沙美ちゃん、あの人が気になるの?」
「な!? 何言ってるんですか」
慌てて振り向くと、いつの間にかバックヤードから出てきたらしい社員の山脇千春がにやにやと笑みを浮かべている。アルバイトの間では美魔女と呼ばれている千春だが、社員であるという情報以外は皆何も知らない。
「あの後ろ姿は立派な社畜リーマンね。彼女はいないから大丈夫よ」
「千春さん、お知り合いですか」
二十一時、閉店時刻となったため閉店作業をしながら千春に問う。
「女の勘。それに有名よ。ホールケーキの予約ドタキャンされたときに買って行ってくれた男性って」
「そのホールケーキってまさか……」
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