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彼はため息を吐くと財布を取り出す。前回はいなかった亜沙美だが、またという言葉が痛い。彼はちらりとショーケースのほうを見た後で口を開く。
「いくらですか」
千春がホールケーキの値段を口にすると、男性はその分のお金を出す。また買ってくれるのかと唖然とする亜沙美に構うことなく千春は会計をし、ケーキの箱詰めにかかる。
「……何か?」
男性に問われ、作業する千春を気にしつつ言葉を返す。
「他に食べたいケーキがあったんじゃありませんか」
たとえば五月の新作ケーキ。亜沙美はショーケースに目を移す。今残っている新作は抹茶チーズケーキと抹茶プリンだ。この時間から生クリームたっぷりのホールケーキを食べるより、カットケーキのほうがカロリーは低い。それにショーケースの方をちらりと見たときの目が名残惜しそうだった。
「また来ますから。それより貴店はなぜ二度も被害に遭われるんですか。被害届は?」
彼の目は亜沙美から箱詰めのホールケーキを持ってきた千春に移る。
「今回はお客様に購入していただいたので被害はありません。もしかして警察関係の方ですか」
「……いえ、こういう者です」
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