決戦はショートケーキの日

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 彼は財布をしまうと代わりに名刺入れを取り出し、ケーキと物々交換であるかのように名刺を差し出す。 「弁護士さん」  名刺を受け取った千春の声が一段高くなる。社畜サラリーマンではなかったのかと亜沙美は半分口を開けたまま固まる。 ――こんなクールで近寄りがたさすらある人が弁護士。 「ご家族で召し上がられるんですか」 「いえ、私が一人で食べますが」  想定外の答えに聞いた千春はもちろん、亜沙美も絶句する。 ホールケーキを一人で食べる。それは子供の夢だ。大きくなったら絶対一人で大きなケーキを食べようと思う。けれど実際それができる年齢になってみると、一人でホールケーキを食べるのはしんどいということに気付く。 「また同じようなことがあったら、早急に警察に被害届を出すことをお勧めします」  彼はケーキの箱を持つと、振り返ることなく帰路へと向かう。 「私、あの人狙いでいくわ」  恐る恐る千春の顔を見ると、彼女の目は獲物を見つけた女豹のように輝いていた。舌なめずりすらしそうだったのは見なかったことにしておく。 「私と付き合いませんか」
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