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深夜の苫小牧駅
夜はまだ肌寒い苫小牧駅。駅長室で軽くあいさつをした私は、エスカレーターをくだってホームに降りたった。
特急列車も多く行き交う場所とあって、堂々とした構えを見せているが、鉄骨にサビが浮いたりしていてどこか寂しげにも見える。
構内には一両の小さなディーゼルカーが留め置かれていた。私の思い出の車両、キハ130系。現役の車両より一回り小さい。
この系列、傷みが激しい他の車両は解体されているのだが、この「キハ130-12」だけは比較的状態が良く、外国に輸出される予定だったのだが、諸般の理由によって計画は中止となり、そのまま苫小牧駅の外れに置かれている。
さて、幽霊はとあたりを見回すと……、居た。1番線、日高本線の列車が発着するホームの南端に、白い服を着てたたずんでいる女性の霊がいた。私は用心をしながらそちらへと向かう。
一見すると人に危害を加えるようには見えないので、話しかけてみることにした。
近づいてみると、少しやさぐれた感じで、15、6歳ぐらいの女の子であることがわかった。
「こんばんは……」
「ちょりーっす、ってなんだお前。なんでアタイに向かって喋ってるんだよ」
見た目通りにやさぐれてるなと思いつつ、彼女にあいさつをする。
「あ、私は霊感があるものですから。はじめまして、日高麗奈(ひだかれな)と申します」
「ふーん、なんかオバさんって感じだな」
ちょっとイラッと来た。まだオバさんと言われる歳では無いと自分では思っている。
「お、ば、さ、ん!? これでも30歳よ。まだまだオバさんなんて言われる筋合いは無いわよ」
「あー、悪かったよ。お、ね、え、さ、ん」
これではどちらにしてもイラッと来ることに変わりはない。
「あなたさぁ、初対面の人間に対しての態度がそれなわけ? 学校で何してたの?」
「学校? んなもん行ってねーよ」
やっぱり、と言う感じだ。イライラは残るが、もう少し話を聞いてみることにしよう。
「学校サボってたの?」
「そうじゃねーよ、行く必要無かった」
「必要無いって、不登校だったの?」
「そんなんじゃねーって」
これではラチが空かない。どうしようかと思案して、ここは除霊の王道を行くことにした。
「うーん、ま、いいわ」
「いいならイチイチ聞くなよ」
「いや、そーゆー意味じゃなくて。私はね、貴女を助けようと思って来たの。何か未練に感じていることとかは無い?」
しばらく考えた後、彼女は。
「もう一度、日高本線を走ってみたいな」
「日高本線を走りたい?」
「ああ。無理なのは分かってるけどさ」
走ってみたいとは不思議な言葉を使うと思った。要するに旅したいってことなのだろうか。
「終点まで行きたいってこと?」
「まあ、そんなとこかな。けど私一人じゃどうにもできねーんだ」
だいたいの察しはついた。この娘はおそらく地縛霊。そして未練を晴らすポイントはここから140キロほど離れた様似と言う街にある。
これは除霊師の本領発揮と思った私は、
「それならいい方法があるわ。明日の朝、ここに居てくれる? 私が貴女を連れて行ってあげる」
「本当か? ありがとよ、オバさん」
「だからオバさん言わないでよ!」
この時、私たちを見つめる視線を感じだのだが、気のせいだと思っていた。
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