未練を晴らす旅路~いきなりクライマックス!?

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未練を晴らす旅路~いきなりクライマックス!?

 翌朝、午前7時50分。 「人間の身体って意外に重いんだな」 「失礼ね! そんなに太ってないわよ!」 「ハハハっ、ホント面白いお、ね、え、さ、ん、だな」 「全く……、身体貸してあげたんだからもっと感謝しなさいよ」  私の身体は彼女がコントロールしていた。  私が地縛霊の未練を解き放つのによく使うやり方で、身体と霊を簡易的な目には見えないシルバーコードで結ぶことより、霊を一時的に縛りから解き放つことができるのだ。。 『鵡川(むかわ)行き普通列車、間もなく発車致します』  車掌さんの合図とともにドアが閉められ、列車はゆっくり動き出して行った。  この路線、2015年1月の強風によって被災したため、鵡川から様似までの区間は、復旧に費用がかかり過ぎることから、今日までバスによる代行輸送となっている。  窓の外には、雄大な景色が広がっている。右手には山、左手には海……、このコントラストが良い。 「ここに来ると、彼のこと思い出すなあ」  私はしばし思い出にふける。この路線は馬産地として有名な静内、新冠などを通ってゆく。その牧場のひとつに元カレが居て、休日によく逢いに行っていたのだ。  2年ほどつきあったのだが、微妙な距離が災いして別れてしまった。  互いに嫌いになったわけではなかったので、思い出すと少しつらかった。  さて、列車が勇払駅を発車し。浜厚真駅に向かっているときのこと。  とある踏切を過ぎたところで、彼女が突然そちらの方向に向かい始めた。瞬間的にコントロールは私に戻った。彼女は踏切から動かない。列車はどんどん離れていく。  まずい、戻って!!  私は叫びとともにコードを体に手繰り寄せる。しかし切れそうだ。と、ここで彼女がそれにきづいたのか、あわてて戻ってくるのが見えた。 「あぶないよ。あのまま切れたら大変なことになっていたわよ。シルバーコードは命綱なんだから」 「すまねぇ……、ここでダチが死んじまってな。思い出したら、つい、な」 「そうだったのね。でもあんなことをしてはだめよ」 「面目ねぇ」  すんでのところで危機を回避し、列車は海沿いを進んでいく。  進行方向右手には広い海、左手には草を食む馬たち、どれもがとても美しく、見るものをひきつけてやまないこの路線に乗るのも楽しみだった。 「なんか、アンタの方が未練ありそうじゃねーか」 「そんなこと無いわよ。もう、ステキな思い出よ」  この技の短所は心の声が丸聞こえになってしまうこと。恋の話を彼女にしっかり聴かれてしまった。 「しかしまあ、ここに来てくれてたんだな。アンタ」 「まあ、ね」  数ある依頼の中からこれを優先して選んだのはこれが理由だった。 『まもなく、鵡川です』  車内アナウンスが乗り換えの案内を告げている。ここからはバスの旅だ。まばらな客とともに駅に降りて、静内行きのバスに乗り込んだ。  その客の中に、やはり視線を感じるのだが……、気のせいだろうか?
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