起点終点

1/1
前へ
/6ページ
次へ

起点終点

 バスは静内駅に到着し、今度は様似行きのバスに乗り換える。 「これに乗れば終点まで行くわね」 「そうだな……」  カナはなんだか感慨深そうにしている。あと2時間弱だが油断はやはり出来ない。  そうだ。 「ねえ、カナ。久しぶりに何か食べない?」 「久しぶり、ってか。はじめてだがな」  はじめて? 食べた記憶もないのだろうか。まあ、細かいことは気にせずハンドバッグからチョコレートを取るように指示する。 「食べてみて」 「ん……、これはうまいな。人間ってこんなにおいしいものを食べてるんだな」  あなたも元は人間だったでしょ? というツッコミは胸にしまった。  その後も旅を楽しみながら、12時15分。ようやく様似駅に到着した。  広い構内がかつての賑わいを偲ばせるが、今はさび付いた線路と窓口以外に何もない、寂しい駅になっていた。 「ありがとよ。現役の時を思い出したら、ここに来たくなってな、もうすぐなくなるって聞いたし」  日高本線は、現在列車が走っている区間を除いて、廃止になることが先日決まった。ここに列車が来ることはもう無いだろう。 「なんだか寂しいわね」 「仕方ねえよ。時代は常に動いていくんだしな……」  彼女は感慨深そうに、駅を眺めていた。  そろそろ折り返しのバスが発車しようかというとき。小学校高学年ほどの一人の少女が私に近づいてきた。 「いろいろと、ありがとうございました。このお礼はのちほどしたいと思います。またお会いいたしましょう」  彼女はそう言ったかと思うと、なんとカナと一緒に二人とも目の前から消えてしまった。 「な、なにがあったの? いったい……」  その後、ふたたび5時間半かけて苫小牧まで戻ったのだが、彼女たちの姿はやはり無かった。  仕方なく駅長さんに除霊の報告をすると、感謝の言葉と謝礼をいただいたのだが、もやもやは残ったままだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加