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起点終点
バスは静内駅に到着し、今度は様似行きのバスに乗り換える。
「これに乗れば終点まで行くわね」
「そうだな……」
カナはなんだか感慨深そうにしている。あと2時間弱だが油断はやはり出来ない。
そうだ。
「ねえ、カナ。久しぶりに何か食べない?」
「久しぶり、ってか。はじめてだがな」
はじめて? 食べた記憶もないのだろうか。まあ、細かいことは気にせずハンドバッグからチョコレートを取るように指示する。
「食べてみて」
「ん……、これはうまいな。人間ってこんなにおいしいものを食べてるんだな」
あなたも元は人間だったでしょ? というツッコミは胸にしまった。
その後も旅を楽しみながら、12時15分。ようやく様似駅に到着した。
広い構内がかつての賑わいを偲ばせるが、今はさび付いた線路と窓口以外に何もない、寂しい駅になっていた。
「ありがとよ。現役の時を思い出したら、ここに来たくなってな、もうすぐなくなるって聞いたし」
日高本線は、現在列車が走っている区間を除いて、廃止になることが先日決まった。ここに列車が来ることはもう無いだろう。
「なんだか寂しいわね」
「仕方ねえよ。時代は常に動いていくんだしな……」
彼女は感慨深そうに、駅を眺めていた。
そろそろ折り返しのバスが発車しようかというとき。小学校高学年ほどの一人の少女が私に近づいてきた。
「いろいろと、ありがとうございました。このお礼はのちほどしたいと思います。またお会いいたしましょう」
彼女はそう言ったかと思うと、なんとカナと一緒に二人とも目の前から消えてしまった。
「な、なにがあったの? いったい……」
その後、ふたたび5時間半かけて苫小牧まで戻ったのだが、彼女たちの姿はやはり無かった。
仕方なく駅長さんに除霊の報告をすると、感謝の言葉と謝礼をいただいたのだが、もやもやは残ったままだった。
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