だからあなたを好きになりました。【後ろの理解者・ep.8】

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 その日、大事な親友が数人に囲まれて罵倒され、小突かれ、嘲笑されて泣かされていた。理由?ただ「縁と仲がいいから」というだけ。子ども特有の理不尽で残酷な儀式に、縁は初めて激怒した。  …どうしてその子をいじめるの?悪いのは私…いや違う、私だって悪くないよ!どうして⁉︎  切ないほどに純粋。故に、業火の如く激しい縁の憤怒の念が、親友を罵倒する同級生に向けられた。美しい萌黄色に立ちのぼるオーラを放ちながら…  縁自身も、自らの力がここまで攻撃的で危険なものとは知らなかったのだ。同級生は不調を訴えてバタバタと倒れ出す。ある者は呼吸困難、ある者は耳や鼻から出血、ある者は全身痙攣…異様な状況に、教室は阿鼻叫喚に包まれた。 「やめて縁ちゃん!あなたは何も悪くないけど、そんなことしたら本当に悪者になっちゃうよ!お願い、いつもの優しい縁ちゃんに戻って!」  この状況でも自分を想い、悲痛な叫びを上げる親友。縁は我に返り、号泣し、念を解いた。  同級生たちは怯えきった瞳で、縁を遠巻きに見つめる。やがて首を押さえて苦しんでいたリーダー格の女の子が意識を取り戻し、恐怖と憎悪にまみれた呻きを絞り出した。それは容赦なく縁に突き刺さる。言葉は一生抜けない刺となり、今も縁を苦しめている。 『…バ・ケ・モノ…』  恐神縁に逆らったら呪われる。その日以後、縁はアンタッチャブルな存在になった。教師でさえも腫れ物に触れるような扱い。だが神社の娘ゆえ、簡単にこの地を離れることはできない。それに縁は負けず嫌いでもあったし、何より本当は同級生たちと仲良く過ごしたかったので、苦境を甘んじて受け入れた。  つまり。縁は小学生にして「諦め」た。異端の自分が生きるためには、親しい人間を作るべきではない。その人を大切に思うほどにきっと、怒りを表に出す場面が増えるからだ。親友は事件の後、親の転勤でこの町を去った。ちょうどよかったんだ。危険な異能を持つ自分は、1人で生きていかねばならない…  でもせめて、笑っていよう。笑っていればきっと、いつか受け入れてもらえる。それが縁にできる精一杯の抵抗だった。
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