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ドアが開いて中から出てきたのは、普段着を着た白髪の男性だった。
驚いた顔で僕たちの方を見て声をかけてきた。
「いったいどうしたんだい、君たち?病院の電話を鳴らしているのも君たちかい?」
男子の一人が、病院の先生と思しきその人に話しかける。
「そこの交差点で、轢かれた猫がいるんです、診てもらえませんか」
彼女が抱きかかえていた猫をその人に見せる。
その人は猫の様子を見て真剣な表情になると、僕らを手招きして中に入るように促した。
「分かった、診てみよう。中に入りなさい」
こじんまりとした動物病院だったので診察室に大勢は入れず、彼女が代表でその医者の先生と診察室に入っていった。
僕ら男子三人は待合室の椅子に座って待つことになった。
僕は椅子に俯いて座ったまま、ここに来るまでのことを考えていた。
猫はなんとか持ち直してくれるだろうか。
僕はもっとなにかできたんじゃないか。
診察が終わるまでにそこまで時間はかからなかった。
その意味するところは、つまり手の施しようがなかったということだった。
彼女は医者の先生が用意してくれた箱に入れられ、力なく息を引き取った猫を抱えて診察室から出てきた。
その瞳はどうしようもなく潤んでいて、必死に涙を堪えているのがすぐに分かった。
他の二人は必死になって彼女を慰めている。
僕は彼女が抱えている箱をのぞき込む。
目を閉じ、息をしていない猫を見た瞬間、僕は泣いてしまっていた。
結局何もできなかったじゃないか。彼女はあんなに頑張っていたのに。
彼女はいきなり泣き出した僕をみて一瞬驚いた表情をして、そのあと僕につられたのか、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
嗚咽は徐々に大きくなり、結局僕と彼女は二人でその場で立ち尽くしたまま泣きじゃくっていた。
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