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恋に落ちてしまうと、体が言うことを聞かなくなる。心が命じる意志に脳から出る電気信号が従わなくなってしまう。そして、ついつい目で好きな人を追ってしまう。村上はチームでDiamondsを練習しながら、流暢に英語の歌詞を発音する佐々木をずっと見ていた。
At first sight I felt the energy of sunrays, I saw the life inside your eyes.
一目見たときから君は僕の太陽だった。そして僕は、君の中に人生を見たんだ。
Shine bright, tonight, you and I, we are beautiful like diamonds in the sky,
君と僕は今夜輝いている、あの空に光るダイアモンドみたいに。
Eye to eye, so alive, we are beautiful like diamonds in the sky.
見つめ合えば生きてるって感じがする。あの空のダイアモンドみたいに僕たちは綺麗だ。
村上のベースとボイスパーカッションが音楽の核を作り出し、コーラスがハーモニーに厚みを作る。そして、音のピラミッドの頂点にいるのがリードボーカルである。こうして村上と佐々木、その他数名で音楽を作るときが何にも代えがたい時間である。佐々木が胸から響く甘いテノールの声で言葉を紡ぐのなら、村上はリズムになって、ベースラインになって一つの音楽になりたいと思った。
「村上さ・・・今日どしたの?練習の時、チラチラ俺の方見てたけど。お前、本当俺のこと好きなー。何か言いたいことでもあった?」
村上の視線に気づいたのか、どこか気まずそうに佐々木が尋ねる。
「い、いや。何でもない。」
(俺のこと好きだなって、言ったよな・・・。もう、気づいてる?俺が好きだって、それでも受け入れてくれてる?)
思わず反射的に目を逸らしてしまったが、何とか言わなければならない。
「あ、あのさ・・・!」
「何?」
「あの、新しい彼女、可愛いね。みんなも、可愛いって言ってた。」
「おう、ありがとう。」
佐々木が心から嬉しそうな声で言う。
「い、いやー佐々木のことだから、また可愛い子、捕まえたんだろうなって思ってたけどさ」
(顔だけ見て、勝手に期待して勝手に幻滅してくんだから。)
「次は長く続いたら、いいな。ってか次はきっと大丈夫だよ!」
(可愛い女なんて、何の努力もしてないんだよ。何もしなくても、男が来るんだから、お前のこと理解して、寄り添おうなんて思わないって。)
「はー、羨ましいな。本当。」
(彼女がな。)
「お前の彼女4人ぐらい見てきたけどさー、みんな別嬪さんだわ。」
(気づいて、俺が一番長くお前のそばにいるんだよ。)
「卒業して働き出したら、めちゃくちゃキレイな嫁さんもらってさー。勝ち組だよな。目に見えるもん。」
(俺は絶対に裏切らないし、離れないから。お願いだよ。)
村上は、佐々木の目を見れずに曖昧な笑いでごまかしていました。もしかしたら、今俺たち二人の間に流れてるこの空気は・・・もしかして、わずかな可能性でも佐々木も俺のこと・・・・
「おう、ありがと!やー、お前も絶対できるよ!お前みたいな良いやつなかなかいないもんな!!」
佐々木は村上の肩をバンバンと叩いて、屈託なく、たくさんの女の子をモノにしてきた笑顔を見せた。
(はああ・・・苦し。)
現実とは所詮こんなものである。頑張れ、村上君。いつかきっといいことがあるさ。
終わり
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