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 幸か不幸か、村上と佐々木は同じアカペラチームを3つほど組んでいる。まあ少なくとも佐々木と一緒にいる時間は村上は満たされているのだから、良かったというべきだろうか。その中の一つは洋楽レパートリーを中心としていて、村上が結成した。曲を提案するのも大体村上である。幸い、選曲のセンスには恵まれているため、チームメンバーからも村上の選んだ曲が歓迎されるのが普通だった。 「へー、Diamondsねえ。しかし、色んな曲知ってんな。お前は本当。編曲もできるし。」 「うん、ずっと歌いたかった曲だったからね。楽譜に起こしてあったやつのストックから。」 幸い、日本の大学生でリアーナやジェニファーロペスがゲイ・アイコンでもあることにピンとくる人はそういない。 「でも、お前が和訳してくれた歌詞。キレイだね。今度俺のために歌ってよ。」 分かってるはずなのに、佐々木の女好きもお〇ぱい星人なのも分かってるはずなのに、どうしても期待せずにはいられない。 (佐々木、お前が彼女をとっかえひっかえするのは、もしかして、本当の自分にまだ気づけてないから・・・。) 「ああ、歌うよ。お前のためにな。あー考えただけでドキドキしてくる。そしたら俺、お前に惚れちゃうかも。」 佐々木がワハハと笑って、村上の腕をいたずらっぽく揉んだ。 「もう惚れてるくせに。歌ってるときはずうっと俺のこと考えていいんだぜ?」 (ほら、もしノンケだったら、ここでこんなこと絶対に言ったりしない。やんわりと拒絶するか、自分はその気ないって意思表示するはずだもん。これって、これって・・・。) 片思いとは、毎日がそんな葛藤の繰り返しである。
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