4

1/1
前へ
/6ページ
次へ

4

さて、場面を戻して村上と佐々木はアカペラの練習後に行きつけのラーメン屋への道中である。運転はもちろん佐々木である。遠征時には機材を積んで長距離運転することもあり、もう運転はお手の物である。対して村上はペーパードライバー。車を手に入れてから一層女の子にモテると聞いて歯がゆくもあり、助手席に座れる幸福も感じている村上である。 村上は、助手席から車のガソリンメーターの横に表示される時刻をチェックしていた。後1分、1分経ったら聞いてみよう。 「あ、あの。佐々木。俺さ・・・。」 「何?」 「実は、彼女できた。」 (どうだ?頼む、動揺してくれ。俺のこと愛さなくてもいいから、少しは寂しがって。お願い。) 「え、マジか!!やったじゃん。」 (へ?それだけ?) 佐々木は見るからに上機嫌になって、ハンドルを切っている。 「そっか、そっかー。ついにな。で、何?何回かご飯でも行ったの?」 「あ、うんまあね。」 (そっか、まあこんなもんだよな。でも、喜んでくれたし。それだけでも・・。) 「ま、俺もできたんだけどさ。」 (・・・は?) 「俺は地元の子でさ。ほら、俺地元近いじゃん。それでSNSで久しぶりに連絡してDMとかしてさ。小・中は一緒だったんだけど、高校は違くて。全然喋ったこと無かったんだけど、久々に会って、いいなって。」 (こんな、こんなの・・・俺ってバカみたいじゃん。自分でカマかけて気ぃ引こうとして、挙句に自爆して。) 村上は動揺を隠して、笑顔を作った。 「へー、そうだったのか。何かわりい。俺の方はエイプリルフールでさ。」 「え?あ!日付変わってんじゃん!!くっそー、何だよ。俺だけ真面目に話しちゃったじゃんかー。」 大丈夫、嘘には慣れている。好きな人がいるの、と聞かれてもどんな子がタイプと聞かれても、そつなく答えられるようになった。でもどこか無理しているのが伝わってしまうこともある。意中の人に限っては気づいてもらえた試しはないけど。とにかく色んな嘘をついてきたし、数えきれない嘘を何度も笑ってごまかしてきた。だから、笑顔の下でどれだけ傷ついているか、苦しんでいるか、気づいてもらえなくても、全く平気だ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加