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飲み会の席では、大体佐々木は村上の隣なのに、この日に限って別テーブルとなってしまった。そして、村上は佐々木に恋している。完全な片思いである。佐々木はアカペラサークルを代表する高身長イケメンリードボーカル。そして村上は普通の顔、普通の体型、性格も普通だが、世渡り上手のベース担当である。明記するまでもないかと思うが、どちらも立派な男である。 「俺さー、実はもう彼女と別れちゃったんだよね。」 「お前、マジか。結構早かったな。」 「あー、やっぱ可愛いだけじゃダメだわ。愛がないとなー。」 「でも、顔はめっちゃ可愛かったよな。」 「それは言えてる。顔はめちゃくちゃ可愛かった。」 ジャ〇―ズ顔とも良く言われる端正な顔立ちをアルコールで上気させ、黄金色に泡立つビールを口に運び、ゴクリと飲み干す。サークル一の美男美女カップルで通っていた佐々木と吉川が別れたという話は、大いに場を盛り上げ、今夜一番の酒の肴となった。 「俺、あんま長続きしないんだよね。飽き症っつーか。」 「ったく、贅沢な悩みだぜ。俺にも幸せ分けろよ。」 「いや、これはこれで結構悩むよ?何で俺、続かないんだろうなーって。」  盛り上がっている隣のテーブルをよそに、村上は履修する教養授業やおすすめのバイトについて話しながら、耳はしっかりと佐々木の会話に集中しているのだった。 「ま、次の恋はすでに始まってるんだけどな。」 佐々木の発言で一気に場が湧く。詮索好きのサークル仲間に押され迫られ、しばらくはこの話題で持ち切りのようだ。さて、好きな人の恋愛話を聞いたことのある人ならお分かりでしょうが、佐々木の隣に行きたいけど行きたくない、1から10まで詳しく話を聞きたいけど、自分から聞く勇気もない、そんな葛藤に苦しみながら器用に新入生に冗談を言ったり、新生活のアドバイスをしてあげるような、どこか可哀そうな青年が村上なのである。 (はあ、佐々木。佐々木ぃ・・・今日もかっこいいなぁ、お酒に酔ってちょっと赤くなった顔も可愛い・・。女の子お持ち帰りとか、しちゃうのかな・・・。) 愛想よく場の会話をリードしながらも心は佐々木のことばかり考えて、興奮ぎみの村上なのである。 (次の恋って、誰のことなんだろう。サークルの誰かかな。高木・・は2つ前の彼女だっけ、西本じゃないよな。それとも、学部の子とか・?) 詳しい話を何とか聞こうと全神経を鼓膜に集中させるも、周りの声がうるさすぎて、肝心な部分がどうしても聞こえてこない。 「俺、やっぱりロングよりショートがいいなあ。そんで、キレイ系より可愛い系がいい!」 「お前、新入生に手出すなよ?」 「ハハハ、さすがにねえって。ま、あっちから好きになられちゃったら、仕方ないけどな。」 「ゲッスいわ。」 (うっわ、最低だな・・・。なんで、あんな最低なやつ、好きになっちゃったんだろう。) 村上はうっとりとして、盃を空けた。 「村上先輩。結構、お酒強いですね。」 「あ?ああ、まあサークルの飲み会で鍛えられたって感じかな。」 アハハと笑いながら、ちゃんと笑えているのか不安になる。そうではない。佐々木のそういう話を聞いたらいつもそうだ。何も分からなくなるぐらい、酔いつぶれてしまいたくなる。酒を知る前の失恋はどうやって乗り越えていたのか、もう分からない。他にも疲れすぎて何も考えられなくなるぐらい、ジャージにも着替えず夜の道を走り回ることもある。夜の9時から朝の5時まで喉がカラカラになるくらい、一人でカラオケに行くこともある。そして、疲れて眠った後の朝は、佐々木とどこかの可愛い女の子が○○○してるところを想像しながら、自分を慰める。
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