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・プロローグ
リンちゃんは、いつも元気で明るくて、本当に良い子ねえ。
……と。子どもの頃、親とか学校の先生とかからは、よくそんなことを言われた。
これが実際本当なのかどうかは……まあ別として、確かにあたしはよくしゃべるし、友だちも多い方だと思う。
オトコ友だちもけっこういて、それをひやかされて「リンってけっこう遊んでそうだよね」とか「おまえ、軽そうだよな」などと言われることもあるけれど、ていうかそれをちゃんと否定することも出来ないんだけれど、こう見えても、むかしは『白馬に乗った王子様が、いつかきっと自分のことをむかえにきてくれる!』とか真剣に考えるような、ちゃんと女の子女の子した女の子だったのだ。
……こうして大学生になり、もちろんそんなことは考えなくなってしまったけれど。
でも、今でも『将来は、やさしくてかっこいい相手と結婚したいなあ』くらいのことは、ぼんやり夢見ている。
『……でもさあ、現実には、多分そうそういないよね。そんな人』
スマートフォン越しに、友だちの由香里が笑っている。
「だよねえ」あたしはベッドに仰向けで寝転がりながら、うんうん、とうなずいて、クッキーをぽりんと囓った。
このアパートで一人暮らしをするようになってしばらく経つけれど、ひとりで閉鎖された空間にいるのはやっぱり心細いし、寂しい。
家にいる時は、大抵こうして誰かと電話をしたり、大音量でテレビを見たりしながら、時間を潰している。
『リン、今はつき合ってる人いないの?』
「ん、今はフリー。……てか、しばらくは、彼氏とか別にいいかなー、とか思ってるんだよね」
『どうせ、また面倒くさい別れ方したんでしょ。リン、いつもそうだし』
「あー、ストップ。思い出したくない。イライラがふくらむ」
『はいはい』
元彼の顔が脳裏に浮かびそうになったので、頭を振り、よ、と身体を起こして、ベッドの上に座った。
もうひとつクッキーを口の中に放り込んで、はあ、とため息を吐く。
そのまま、ぼんやりと窓の外に目を向けた。
今日は日中ずっと晴れていたけれど、そのせいなのか、月も星も、すごくキレイに出ていて――あたしはふらふらと立ち上がって、じ、と目を細めた。
「……星に願いごととかしたら、なんか良いことあるかなあ」
――ふ、と息を吐き、つぶやいた、その瞬間だった。
あたしは思わず目を見開いて、スマートフォンを強く握った。
「……。ごめん、ユカリ。なんか、切るね」
『え? 何? どしたの?』
「なんか、来る」
『は?』
唾を飲み込み、画面をタップして、電話を切る。
目を擦ってから、あたしはもう1度、窓の外に目を向けた。
……やっぱり、見間違いなんかじゃない。
なにかが。
――『星』が、こっちに――来る。
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