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「ふう、疲れたな」
「お疲れ様です。川崎副総理」
気が利く黒服がすっとあつあつの珈琲を差し出してくれる。一啜りすると味わい深いコクが口内いっぱいに広がる。うーん、相変わらずこの珈琲はコクが深くて美味いな。
「それにしてもよかったんですか。」
「んー、何がだ」
「分かってらっしゃてるくせに、田中一さんですよ。流石に薄情に思えたので」
「ははは、なにを言っているんだ」
あまりにおかしかったのでつい大声を出して笑ってしまった
「なんだなんだ外まで丸聞こえだぞわかさぎ」
「川崎です。総理ノックくらいしてください。無作法ですよ」
「へっ別れの挨拶も聴かずに帰った糞野郎に言われたくねぇな。なんならもう片方の目にもノックしてやろうか」
「勘弁してください。白杖がもう一本必要になってしまいます」
「あの、白杖とはそういうものではないかと」
そう言いながらコーヒーをもう一杯用意して総理に出した。
「知ってるさ。単なるジョークだよ」
「で、なにを大笑いしてたんだ」
総理は机に身を乗り出すと勢いあまって、がちゃんと音をたて珈琲をこぼしてしまった。
総理はいけねとポケットから青いハンカチを出して机を拭く。見かねた黒服が真っ白で綺麗なふきんを持って来ると総理はそれを制止した。曰くこのハンカチには染みついて決して取れないものが既にあるから今更お綺麗には使えないと。
やれやれどっちが皮肉好きなのやら。
そりゃあ大笑いするだろうよ。ぼくをぶん殴るためだけに、別のプロセスーあんな名前だけの組織の長から総理大臣にまで這い上がってきたんだから。
どうやらはじめっちゃんが総理大臣に選ばれることは運命じみた決定事項だったわけか。やれやれ。
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